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◎二枚舌の経営者は困る 以前はプロ野球のファンで球場にも出かけていたが、何か面白くない野球に今年はテレビ中継も見なくなっていた。一昨年であろうか、外国人選手にはホームランの新記録をつくらせないと、シーズン終盤に四球敬遠を繰り返す狭量な日本のプロ野球に失望したのも一因かもしれない。 ところが球団合併、新球団参入へと続く一連のごたごたした騒動が報道されて、いや応なくプロ野球情報に触れることになった。経営者としてはすご腕でもスポーツマインドを持たない球団経営者の不健全な感覚、閉鎖的体質を知って唖然(あぜん)とした。一方、選手サイドにも「日本の球界には愛想が尽きた。大リーグに挑戦する」という気概のある選手が現れなかったのは残念であった。そのような折にイチロー選手が大リーグ安打記録を更新した。競争の激しいかの地で偉業を成し遂げた彼に畏敬(いけい)の念を抱いたのは自分だけであろうか。 イチロー選手には特別な感慨を持っている。古い経験であるが、イチロー選手と同じような年齢にニューヨークに滞在する経験を持った。小柄な私にとって毎朝、利用する地下鉄のバネ式つり皮と男子用の高いトイレがいずれも“つま先立ち”を必要として、体格に対する敏感な意識が心に植え付けられた。身長一九〇センチ、体重九〇キロ程度の体格の人が普通にみられる米国の人たちと、スポーツで対等に競うことは無理だと考えるようになった。 日本人の野球選手の中でも小柄なイチロー選手が大リーグに挑戦すると聞いたときには、マイナーリーグでベンチを温めるのではないかと危ぐしたが、杞憂(きゆう)であった。 昨年、イチロー選手を見るためにシアトルのセイフコ球場に出かけた。二塁打をかっ飛ばしたが、塁上ガッツポーズで観衆に応えることもなく、にこりともせずに静かに腕のプロテクターを外していた。何ともクールであると感じたが、激烈な競争社会の中で体力的に劣る自分の弱さを技術で克服してきた経験が、そのようなスタイルをとらせているのかと推察した。 医療界も球界と同様に変革に揺れている。小泉首相が推し進める規制改革の一環である「混合医療解禁」という問題で、規制改革・民間推進会議と医療関係団体が対たいじ峙している。同会議の議長はパリーグの合併球団のオーナーでもある。ストをめぐる球団、選手代表たちとの交渉の中で、この球団は新球団の参入に厳しい条件を付けて、結果としてストに導いた球団の一つと報道されている。 一方、混合医療の解禁により、保険販売に有利であるとの批判もある。まさか、自社の利益が予想されれば規制緩和、利権が侵されれば現状維持であることはないと思うが、医療関係者の中には厳しい批判を加える人もいる。 前橋の病院に勤めていたときには、病気で舌を失った人の手術治療に努力したが、国民的スポーツである野球の経営者の中に二枚の舌を持つ特異な人がいてほしくないと考える。 (上毛新聞 2004年11月8日掲載) |