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獣医師 安田 剛士さん(沼田市戸鹿野町)

【略歴】日本獣医畜産大大学院修士課程修了。獣医師。沼田市で動物病院を開業。環境問題に取り組み、群馬ラプターネットワーク、赤谷プロジェクト地域協議会事務局長。県獣医師会員。

エネルギー資源の利用


◎循環型社会の構築を

 環境と開発に関する世界委員会が、報告書「我われわれ々の共有の未来」(一九八七年)で持続可能な発展(開発)を「将来の世代が彼ら自身の必要性を充足する能力を損なうことなく、今日の世代の必要性を満たすような発展(開発)」と定義して以来、現代社会は、経済成長のみを追求するのではなく、環境への配慮をはじめ社会的な責任を果たしながら、人、企業、社会、地球全体が発展していくことが求められてきた。

 当時、画期的だった世代間(我々と子孫)の平等と世代内(世界中の人々)の平等の調和を視野に入れたこの宣言は、その後、私たちの豊かさを支える自然の恵み(資源)の多くが有限であるにもかかわらず、消費のスピードが一向に減速しないと同時に、私たちの生存を支える自然の仕組み(水、大気、土壌など)を保つための循環を破壊し続けている現状を反省し、発展よりも持続性や循環そのものを目標とする考えに移ってきた。

 気候変動枠組み条約で温室効果ガスの削減を義務づけた京都議定書が発効される見通しになったが、日本の温室効果ガスの排出量は増加している。そこで原子力エネルギーの利用が推進されているが、原子力産業を支えるために大量の石油が消費され、山の中に揚水発電用の巨大ダムが必要なことはあまり知られていない。しかも、温室効果ガスよりもたちの悪い放射性廃棄物が出る。

 廃棄物が出ない、あるいは循環するクリーンエネルギー資源の開発・利用促進が提唱されているが、なかなか普及しない。木質バイオマスエネルギー(木材でできた燃料)が、循環型の再生エネルギー資源として注目されている。スウェーデンでは、炭素税の導入もあり、かなり普及し、国民のエネルギーと環境に対する関心・意識も高い。

 中国が自国の森林保護など環境対策の推進のため、木炭の輸出を停止した。木炭が現在の日本のエネルギー事情に占める割合は低いが、家庭の主要エネルギーだった昭和三十年、木炭生産量は二百万トンだった。現在では二万トンである。国内生産の減少は、日本から森林がなくなったわけではない。燃料革命と呼ばれる化石燃料の普及によるが、今では単に海外から輸入した方が安いからだ。そこで中国から大量に輸入していた。

 木炭は東南アジアのマングローブからも多く生産されており、マングローブ林を破壊して営まれているエビの養殖と併せて、輸入エビを炭火で料理すれば、マングローブを食べているのと同じだ、と皮肉を込めて主張する意見もある。そして、利用されなくなった日本の里山は荒廃が進んでしまった。世の中を市場原理が支配し、経済効率が優先された結果、生じた社会的損失の典型例といえる。

 紹介した例は、これからのエネルギー資源の利用について考え、実践するよい機会だと思う。この問題は極めて個々人の意識の問題だ。国や業界が違う方向を向いていても、大きな力に惑わされることなく、未来と世界に責任ある選択をしてほしい。それが思いやりのある社会だと思う。

(上毛新聞 2004年10月20日掲載)