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◎賭けを恐れて栄光なし やってみなはれ。人生はとどのつまり、賭けや。細心に細心を重ね、起こり得る一切の事態を想像しておけ。しかし、最後には踏み切れ。賭けろ。賭けたら大きく賭けろ。賭けたらひるむな。徹底的に食い下がって放すな。賭けの瞬間は孤独で寂しくてつらい。だが、賭けという難関を自ら設定し、それを突破する勇気もなくして人間の一生に輝きはないのだ。賭けこそ人間をとことんまで鍛え上げ苦しめるのだが、賭けを恐れる人間に栄光と生きがいは恐らく訪れないだろう。 サントリーの二代目社長、佐治敬三氏がビール製造の決意と企図を、創業者であり父である鳥井信治郎氏に打ち明けた際、この言葉が返ってきたという。地ビールづくりに行き詰まっていたとき、友人からの手紙でこの言葉に出合い、励まされました。地ビールづくりの実現にはビール製造許可、設備資金、製造量などの難題がありました。ビール製造許可を申請する場合、年間最低製造量(六十キロリットル、大瓶約九万五千本分)が決まっているため、製造可能な設備が必要になります。 地ビール協会に問い合わせたところ、設備をそろえるのに最低でも一億円はかかると言われました。夢のような話を実現できたのはスイス人の友人、エドガーとの出会いでした。エドガーは南牧村でサバイバルスクール「アチレア」を主宰しており、以前、スウェーデンでビールづくりを学んだ経験があります。 まず、製造量の問題は、エドガーの奥さんの一言で解決できました。「発泡酒にしたらどう」(発泡酒の年間最低製造量は六キロリットル)。発泡酒とは、政令で定める副原料が麦芽の重量50%を超えるものや、ビールには使用できない原料を使用した発泡性飲料のことです。地域の特性を生かしたビールづくりは、発泡酒の方が向いているといえるでしょう。製造量の問題は何とかなりましたが、それでも設備資金に数千万円かかります。 ある日、エドガーから「五十九万円の中古プラント(製造装置)があるけど、どうする」との連絡が入りました。話を聞くと、欧米ではホームブルワリーという文化があり、一定量であればアルコール飲料の製造が可能で、大小さまざまなプラントがあるとのこと。設備資金の問題も解決のめどがつき、残りは製造許可の問題だけとなりました。申請に必要な書類を作成し、税務署通いが始まりましたが、行くたびに条件が出され、結局、最後に「地ビール業界の現状を考えると、あきらめた方がいい」と言われました。 今度こそ駄目かなと思い、いろいろとお世話になった埼玉県の地ビール工場に報告に行ったところ、何と、そこに購入予定だった物と同じプラントがありました。そのため、当面はそこでビールづくりを学び、製造委託することにしました。こうして南牧地ビールは誕生しましたが、村の活性化のためにも、いつかは南牧村でビールを製造したいと思っています。「やってみなはれ、みとくんなはれ」。夢はまだまだ続きます。 (上毛新聞 2004年10月18日掲載) |