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前副知事 高山 昇さん(前橋市六供町)

【略歴】前橋高、東北大大学院文学・経済史修了。1962年県入庁、職員研修所長、広報課長、農政課長、農政部長、総務部長などを経て95年10月から副知事。2期8年を務め、昨年10月に退任。

若者の雇用


◎多様性生かす社会を

 最近、フリーターとニートをめぐる議論が多く聞かれる。フリーターはすでに社会に定着しつつあり、ニートは増え続けている。私たちはどういう顔を持つ社会を描いていくのか、私たちに何ができるかが問われていると思う。

 「社会的に望ましくない事態が生じたとき、それを特定個人の悪あしき意識の変化として解釈することには慎重でなければならないと経済学は教える」(玄田有央、曲沼美恵著『ニート』)という。確かにフリーターは社会にしっかりと組み込まれており、彼らがいなければ社会は成り立たなくなってきている。若者たち個人の問題というより、社会もしくは経済システムの問題になっている。

 九○年代以降、企業で働く「正規社員」は縮滅している。若者の採用は抑制され、中高年層もリストラされている。中高年層が居座れば、その分若者の正規社員としての就業は狭くなる。一方、パート、アルバイト、契約社員、派遣社員など期限付きの「非正社員」は増えている。そのため、バブル経済崩壊後の低成長のしわ寄せが立場の弱い若者にいき、生まれたのがフリーターであるといわれている。さらに就きたい職と企業が必要とする職のミスマッチが起きていると主張されている。

 しかし、基本的には雇用の不安定化と、その二極化という社会経済の構造的変化が背後にあると考えるべきである。その新しい流れが九○年代にわが国に押し寄せ、その波を真っ先にかぶっているのが若者たちである。

 今後、雇用制度はどのような方向に変化するのか、注目すべき指摘がある。「基本的には賃金は企業において生み出される付加価値への貢献度に応じて決まることになる」。そして「労働時間当たりの付加価値は、職種によって異なる」。能力給における能力とは「ある職種に従事し得る能力(スペシャリティー)と、その職種をよりうまくこなせる能力(スキル)の二つからなる。…新たに生まれる雇用制度はスペシャリティーに基づく賃金体系を基本としたものになると考えられる」(松谷明彦著『人口減少経済の新しい公式』)と展望している。

 私たちの歩んでいく道は価値観や働き方、ライフスタイルの多様性を前提にした社会であろう。そして今、政治や行政に求められていることは、それを可能にする社会基盤の形成である。

 フリーターの増加は正規社員を当然としてきた、これまでの社会の在り方に変更を迫っている。雇用の在り方や賃金体系、社会保障制度を多様な働き方、ライフスタイルに対応したものに変えていく必要がある。すでに欧州ではフルタイマーとパートタイマーの違いは働いている時間量による違いであり、身分の違いを表すものではない。社会保険も均等に加入できる。

 「人間の生きる喜びは、愛することと働くことである」(フロイト)という。働こうとせず、学校にも通っていない。仕事に就くための専門的訓練を受けていない「ニート」と呼ばれる若者も多数存在している。「学校は悪い、家庭はより悪い、社会は最も悪い」(『正論』二○○一年六月、お茶の水女子大・森隆夫名誉教授)と書かれていたのが思い出される。私たちがこうした若者のことを思い続け、「信頼できる他者」(『ニート』)として行うべきことは多い。

(上毛新聞 2004年10月16日掲載)