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高崎商科大学特任教授 硲 宗夫さん(神奈川県横浜市)

【略歴】大阪大大学院修了。毎日新聞記者に。定年後は評論家。和歌山大経済学部教授を経て2001年から高崎商科大教授。定年により4月から特任教授。著書に『悲しい目をした男 松下幸之助』など多数。

「知」の時代の子育て


◎親が見本示してみよう

 国立天文台の先生の調査によると、小学生の四割が「太陽が地球の周りを回っている」と思い、三割は太陽の沈む方向を「西」と答えられなかった。アンケート調査の対象は小学四―六年生。一年生ならともかく、そうではなかった。

 小学校の学習指導要領には「地球の自転・公転を教えよ」とは明記されていないが、それはたいしたことではない。親と子の会話に天動説と地動説が争った歴史物語が登場すれば、一発で分かることだ。東西南北の方角は生活知識の基本である。右と左の区別にも似ている。学習指導要領に記載するかどうかの問題ではなく、親が子供に教えておくべき基本的な生活知識であったことを確認したい。

 親子が「共生」を楽しみ、親から子へ貴重な「知」を受け継ぐ大切な機会はいつしか消えていた。生活難から「子供と接する機会がなかった」例はごく少数にとどまる。休日も夜間も活用できる。課題は親意識の温度差だったようである。

 なぜ、一部の親は子供に教えないのか。面倒なのか。知的な空虚を抱えた子供を平然と学校に託し、教師が苦悩する不都合をこれ以上、見過ごしていてよいものだろうか。

 私は「親責任」を強調してきた。それはDNAの継承を効率化する生命体の基本動作であるばかりか、社会を守る意味での社会的責任にも属するからだ。親になるかどうかは選択できる事柄である。親になれば、子育てに責任を持ちたい。

 次の提案に新味はない。当たり前のことである。

 親の行動を変えよう。例えば、だ。親子が路上観察する。タンポポはこれ、モンシロチョウはあれ、と語ろう。四つ葉のクローバーを探してみよう。夜、星のまたたきは美しい。北極星と北斗七星から始めて、星座の名前を覚えよう。伝説はいっぱい。子供にロマンの世界が広がっていく。竹トンボを、万華鏡を作ろう。おもちゃを作るのは子供の特権だった。親が見本を示してみよう。

 「親責任」を、親自身が大切にしたい。動物として子供をつくるのは簡単でも、人間として健全に、堅固に生きられる子供を育てるのは容易ではない。が、「自立していける子」「世の中に迷惑をかけない子」を育てるのは、日本の伝統的生活文化の誇りだった。ライオンだって子供が独立してメシが食えるように厳しくしつけている。人間よりも堅実に思えてくる。

 核家族化と地域の荒廃から、家庭・地域の教育機能が低下したのは残念なことで、親責任は余計にズシリと重くなったが、愚痴を言うだけではすまされない。

 二十一世紀は「知」の時代といわれる。知識と知性、知恵を懸命に磨かないと、世界の中で、日本は先進国としては生きていけなくなる。豊かで、聡明な「知」の開拓が可能な、たくましい次世代の養成は極めて重要なテーマである。政治、行政、学校それぞれに頭の痛い宿題を背負ってはいるが、親の“生き物責任”を世に問うのが先決のように思われてならない。

(上毛新聞 2004年10月7日掲載)