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生活評論家・薬剤師 境野 米子さん(福島県在住)

【略歴】前橋市生まれ。千葉大薬学部卒。都立衛生研究所に勤務後、福島県に移住し、暮らしの安全について模索。著書に『安心できる化粧品選び』(岩波書店)『玄米食完全マニュアル』(創森社)など。

サプリメントへの警鐘


◎食事や生活を見直そう

 アカネに発がん性があり、コンフリーで死者なんて、ショックです。アカネもコンフリーも家の周辺に茂っているので、食べたり飲んだりしてきました。拙著『よく効く野草茶ハーブ茶』(創森社)でも、これらの効用を紹介しています。

 アカネは、根が乾燥して赤くなることから名付けられ、染料として使われてきました。万葉集の額田王の歌「茜(あかね)さす紫野行き標野行き…」や聖書にも登場し、モーセが「主に捧げるものを持ってきなさい」として挙げた一つが「あかね染めの雄羊の皮」でした。消炎、止血、通経(生理不順)、鎮咳(ちんがい)作用があり、漢方薬としても用いられてきました。さらに食品添加物として、かまぼこやハム、ソーセージ、菓子類の着色に使われてきました。

 ところが、腎臓に対しての発がん性が明らかになり、厚生労働省は営業者には「製造、販売、輸入の自粛」、消費者には「摂取を控える」指示を出しました。

 コンフリーについては、アメリカでサプリメント(コンフリーの根の粉末)を常用していた四十九歳の女性が肝臓疾患、ニュージーランドでは二十三歳の男性が肝不全で死ぬなど、海外でさまざまな健康被害が多く報告されています。

 とりわけ幼児はコンフリーの毒性に感受性が高く、一週間以内に肝臓の障害を起こすとされ、コンフリーのお茶を飲んだ女性から生まれた赤ちゃんが同じような肝臓障害を起こしています。最大の問題は大量に、連続して長期間摂取してしまうサプリメントなのですが、厚生労働省は自生しているコンフリーも「健康被害を生じる恐れがあるので、食用にはしないように」と指示しています。

 最近、サプリメントと呼ばれている錠剤やカプセル、または液状の健康食品が大きく宣伝され、安く販売されています。これらは、栄養素や成分がコンパクトに濃縮されています。手軽に、いつでもどこでも飲める便利さがある反面、一度に多量のものを飲むため、過剰に摂取する危険性が指摘されています。

 中でも過剰摂取によって重い症状が出るのは、ビタミンAやビタミンD。ビタミンAは筋肉痛、皮膚の剥離(はくり)や、子供が奇形児になることもあります。ビタミンDは血中のカルシウム濃度が高くなり、腎臓障害や組織の石灰化などが起こることが分かっています。また、カルシウムや鉄などのミネラル類についても、過剰症が報告されています。こうしたものに飛び付く前に、毎日の食事やライフスタイルを見直し、サプリメントに頼らない生活をする必要があるのでしょう。

 考えてみれば、アカネやコンフリーはもともと食用ではありませんでした。まず、いつも食べるものは、昔から食べられてきたものにすることですね。命がけで伝えられてきた昔の人の情報より、「○○に効く」などの健康情報に振り回され、自然との付き合い方を見失った愚かな人間への警鐘なのでしょう。

(上毛新聞 2004年9月30日掲載)