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◎専門から学際の領域へ 近代諸科学における科学的知識や法則は、観察や実験に基づいて物事や現象を単純化し、仮説を立てて実験的検証を行うことで獲得されてきました。そして対象・現象を科学するための必然的帰結として、学問の領域化も生まれました。しかし現在、この科学の「領域化」が領域を超えた地球環境問題などへの科学的対応を困難にしています。つまり、細分化された専門分野を深く追究する従来型の科学的方法論で成り立っている現代科学には、地球環境問題などの学際的問題に、有効に対処できないという深刻な欠陥があります。 人類が自ら生み出した文明が、地球の生態系を破壊しており、人類は発がん物質の氾濫(はんらん)や環境ホルモンなどの生体内蓄積、抗生物質の多用に伴う耐性菌の発生、過剰な二酸化炭素による地球温暖化など、さまざまな地球環境問題を招いてきました。こうした地球環境の破壊は、科学的知識を応用して自然を制御し、安全で快適な生活を追求する人間中心の営みから、必然的に発生した根源的問題と考えられます。 一九九九年にブダペストで開催された世界科学会議では、科学者自ら「科学のための科学(ScienceforScience)」から「社会のための科学(ScienceforSociety)」へと基本的立場を変えるという「科学と科学的知識の利用に関する世界宣言」が採択されました。二十世紀までの科学では、大学や科学者は社会と一線を画して科学論文を生産し、科学的知識の蓄積と科学独自の発展に尽くすことで評価されました。この世界宣言は、科学を「社会のため、人々ための科学」という基準によって評価することに変えた、科学のパラダイムの転換といえます。例えば地球環境問題の解決に総合的学際的に取り組んだり、生命科学の基礎研究の成果を積極的に医療に実用化し、国民福祉に還元したりする応用研究が今世紀は重要視されることになります。 こうした中、「知の創造の府」としての大学が果たすべき使命は、専門領域から学際領域に活動を展開して、直面している地球規模の課題に対処し得る新たな知を創造し、産官学連携を強化して豊かな社会の発展に貢献することです。 「社会のための科学」は、現代文明が複雑多岐なる混合システムであるため、多分野にまたがる膨大な知識を要求します。科学知識の社会的総合、すなわち「学際的科学領域の創造」を求めています。そして、現代社会が抱える諸問題の解決に必要な知識や方法を社会に提供しなければなりません。その一方で、創造された知識が社会にもたらす影響を検証しながら進む学問的態度も求められます。 群馬大学においても二十一世紀COE(世界最高水準研究教育拠点)プロジェクトや国際原子力機関アジア地域研究協力など、国際的教育研究拠点を目指す活動はもとより、社会貢献の視点から地域連携推進室、地域共同センター、群馬がんアカデミーなどの活動を通し、地域に根差した大学としての教育研究活動が展開されています。 (上毛新聞 2004年9月23日掲載) |