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◎問われるヘルパーの質 準備不足、見切り発車などと言われつつ、介護保険制度が導入されてから五年。最近、あちこちでさまざまな問題が指摘され始めている。 一九九八(平成十)年一月、市でホームヘルパー養成講座が開講すると聞き、申し込み会場へ出掛けて驚いた。午前九時受け付けというのに、なんと七時から並んでいた人も含めて、長い行列であった。 間もなく係りが来て開口一番、「定員は二十人です。先着順です」と言う。これでもめないはずがない。「先着順とは聞いていない」「時間前から狭い工事中の旧庁舎に、並んで待てないではないか」。市職員は「こんなに大勢の関心があるとは考えなかったわれわれの責任です」と陳謝。結局、定員の三倍近い仲間と一緒に、机に向かう毎日となった。 信州で過ごすしゅうと、しゅうとめは当時、八十七歳と八十四歳だった。その暮らしの限界は目前との不安を抱えつつ、とりあえず元気と半分目をつぶり、その手だては何もなされていないというのが現実だった。講座で介護、介助を学び、わが家での日々を過ごしてもらう一助としたい、というのが受講の動機であった。ちなみに、しゅうとは八十九歳で天寿を全うし、九十歳のしゅうとめは義兄宅で過ごしている。 講座実習で特老ホームに通い、また市の社協ヘルパーに付いて家庭訪問も経験したが、民間施設ヘルパーとの仕事内容の濃度の違いに、あぜんとしたことも記さなければならない。福祉の裏側などと言うつもりはないが…。 以前から各種ボランティアで体験していたことだが、食事介助、身体清せい拭しきなどは経験豊富な、あるいは体力ある若い人たちの動きの方がテキパキとして、実に効率よく気持ちがいい。しかし、ホールに集うたくさんのお年寄りの表情は能面のごとく、あるいはしゃべくり機械のようで、会話は成立しない。 ある日、一つのテーブルに参加した私は、お年寄りたちに話しかけ、その方々の青春時代とおぼしき時代のはやり歌を歌った。「♪とんとん とんからりんと 隣組…」「♪花摘む野辺に日は落ちて…」。初め三人だったテーブルは五人に、そして八人に増えた。何とその口はかすかに動き出し、声が重なり始めたではないか。遠い記憶、思い出のページが開かれたのだろうか。 施設の若い職員の仕事を身体のケアとするならば、年代の近いわれわれが手助けできるのは、もしかしたら心の平安ではないだろうか。それはヘルパーに限らずボランティアとしての参加も可能と思う。 あまりに急いで動き始めたこの制度の、そしてヘルパーの質が問われ始めている。収入のみが目的とされているなら、やはり考えなければならない。仕事は人とのかかわり合いであり、一度得た資格の更新手続きはないのだから。 (上毛新聞 2004年9月11日掲載) |