視点 オピニオン21
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関東学園大学教授・附属高校副校長 高橋 進さん(足利市堀込町)

【略歴】東京学芸大卒。同大学院教育学研究科修士課程終了。日本体育学会、日本武道会などに所属。全日本柔道連盟専門委員で、谷亮子選手のトレーニングドクターを務めた。

アテネ五輪の好成績



◎要因に選手の心の強さ

 アテネ五輪の余韻がまだ残っている。百メートル平泳ぎ、北島康介選手の優勝の雄たけびに心を揺さぶられたのは私だけではあるまい。「ちょー気持ちいい」と、優勝インタビューで見せた北島選手の実直さにも好感を覚えたが、その後、すぐに「応援、支援していただいた方々に感謝…」と切り替えた言葉の裏側に、彼自身の五輪への重圧感をうかがい知ることもできた。

 誰のために泳ぐのか、誰のために戦うのか。今日的若者の答えとしては、「己のため」と返ってきそうである。確かに、アテネ五輪を振り返ると、「好成績は日本国のためという呪縛(じゅばく)から解き放たれた若者の気風が要因」と結論付けることは、一側面からかんがみれば否めない。しかし、本当にそうであろうか。

 柔道の男子100キロ超級、鈴木桂治選手の優勝インタビューで「イェー」と言って退けた事実が、選手の思考の変化を物語っているではないか、と前述した結論に賛同される方も数多くおられるに相違ない。一方、男子100キロ級、井上康生選手の敗戦インタビューで「これから先の柔道人生もある」と、今までの努力と栄光を自己否定するような、旧来の日本人選手タイプも存在するわけだから、そうとも言えないのではないか、と反論する方もおられるだろう。

 私見であるが、選手の心自体が強くなったことが、実はアテネでの好成績の一要因ではなかろうか。先に挙げた北島選手の郷里・東京都荒川区でのフィーバーぶりについても、数々のメディアを通して紹介されてきた。「荒川ゆうネット」という荒川区が管理運営する地域ポータルサイトの中にまで、北島選手の応援サイトが出現したことも周知の通りである。

 自己にかかる期待の大きさを、情報化が進んだがゆえに直接的に感じてしまう今日。その期待に対する謝辞を、優勝インタビューで即座に述べることができた事実。重圧感をすべて受け止めて、それを跳ねのける心の強さがなかったら、北島選手は、あのように冷静なインタビューを披露できなかったのではないか。あの井上選手でさえ、大きすぎた期待という重圧によって、アテネでは本来の実力を出せなかったのである。オリンピックには魔物が存在する。選手にかかるプレッシャーは、想像を絶する。

 われわれ柔道関係者を冷や冷やさせた、鈴木選手の「イェー」も緊張感から解放された証しであり、それに至るインタビューでは、北島選手に劣らぬ話の内容であった。この一言を非難するよりも、百キロそこそこの体重で、日本柔道の強さを証明した鈴木選手の心の強さに賞賛を与えたい。

 日本人選手のメンタル面での強化の必要性は、一九六四年の東京五輪以来、言われ続けてきたが、アテネ五輪の好成績はそれを覆す結果といっても過言ではあるまい。今後の日本スポーツの在り方について議論する余地はあるが、今は好成績に酔いたい。

(上毛新聞 2004年9月7日掲載)