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◎働く人が楽しい地域に 「文化や歴史、自然や気候風土などの地域特性に新たな魅力を付け加え、特産品の開発をしよう。そのために補助金制度もあります」。このような取り組みが、地域づくりの一つの手段として全国的に展開されてきました。しかしながら、どれだけ多くの事業が、全国どこにでもあるような物まね品を生み出しただけで終わってしまい、補助金の打ち切りとともに、継続できずに忘れ去られたことでしょうか。 特産品の開発には、個性的な価値創造、市場戦略などが必要とされますが、最も大切なことは持続性の問題だと思います。一過性の気まぐれ的な取り組みでは、地域や消費者から支持されません。人生観や職業観といった根幹要素の裏付けが不可欠です。そこで、今回は野菜こけしで有名な、こけし作家の福島汪江(ひろえ)さん(吾妻町)を紹介します。 幼いころから絵を描くことが大好きだった福島さんは、こけし作家の関口三作氏の下で八年間修業を積みました。この間、こけしコンクールで、農村の子供や正月行事どんど焼きをテーマにした作品が大臣賞などを受賞しました。しかし、修業を終え独立しても、なかなか作品が売れず、作家として苦しんでいました。 そんなとき、吾妻特産のコンニャクのこけしはできないかとの友人の言葉をヒントに、こんにゃく玉の形をした「こんにゃく太郎」こけしを創作しました。昭和五十四年のことです。続いてミョウガのこけし「みょうが姫」を創作。農産物をテーマにした優しい表情と丸みをもった作品は、地元の人々から支持され、「今度はキャベツ、次はトウモロコシで…」と、野菜を指定した注文が次々にくるようになりました。 これが、野菜こけしの誕生のきっかけです。やがて、新聞や雑誌、テレビでも紹介され、「野菜こけし」の存在は全国に知れ渡るようになりました。福島さんの作品からは、常につましく、素朴で、童話的詩情を大切にしたいという作家自身の心情が伝わってきます。「貧乏しているくせに、あんたの作品にはふくよかな温かさが宿っているね」と、お客さんから褒められたと言いながら、福島さんは無邪気な笑顔を見せます。 福島さんは、商品や販路の開発という意識も、もちろん補助金なども全くない状態でスタートしました。創作の過程では、芸術家特有の悩みや苦しみもあることでしょう。しかし、地域の人々と野菜や果物を愛する気持ちが、自分の人生、職業と自然に融合しています。だから、創作活動を継続でき、その姿勢が地元の人々に支持され、汪江こけしのファンが増えてきたのではないでしょうか。 野菜、果物のこけしは、現在六十種類を超えるそうです。七夕などの季節行事のこけしと合わせて、これからも多くの人々を勇気づけ、心を和ませていくことでしょう。「野菜や果物づくりをしている人に自分の作品を喜んでもらえることが何よりもうれしい。働いている人が楽しければ、おのずと楽しい地域になる」。地域づくりの神髄ともいえる福島さんの言葉が印象的です。 (上毛新聞 2004年9月3日掲載) |