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◎守っていきたい「個性」 私たちは現状認識において、手に届かないものを過小に評価したり、手にしているものは理想どおりのものであってほしいという願望が働くことが多い。 この時代の空気みたいなものになっている閉塞(へいそく)感や不安感、無力感を取り除いていくためには現状を正しく認識し、変えなければならないものは変えていく勇気が必要である。ただその際、変えること自体が優先され、いつの間にか、その目的や基本から外れてしまうことがある。今議論されている「規制改革」や「三位一体改革」などは、その傾向にあるといえるだろう。 また、それとは逆に変えてはならないもの、強さ・よさ・美しさに目を向けようとせず、軽々にそれを捨て去ってしまうことがある。 どちらも現状を正しく認識することを怠っているといえる。あるいは認識しても、私たちの思考がそこで停止してしまっていることに気付いていなかったり、意図的にそれを避けているからであろう。 わが国の経済的成功をもたらした社会的な制度・慣習として、しばしば企業系列、終身雇用、官民協調などが挙げられている。そして「その種のものの耐用年数をはるかに超えて有効に機能してきた」(P・F・ドラッカー)。だが、もはや満足に機能しているものは一つもないといわれる。 そうだろうか。私たちの持つ強さ・よさ・美しさという「個性」は、その形や名称が変わることはあっても、生き続けるものである。そうした知恵と評価が私たちに常に求められていると思う。 「技術は人のなかに蓄積される」(御手洗冨士夫・キヤノン社長)として、長期雇用のよさが見直されている。長期雇用から生まれる運命共同体という意識と経営が目標に向かっていくコミュニケーションの伝達のスピード、これを追求することが日本においては最も合理的である、という(『voice』7月号)。 また、系列は閉鎖的な生産体制であり、市場経済の合理性に反するシステムであると批判されているが、それは悪ではなく、むしろ強みではないかという評価もある。さらに、わが国の中堅・中小企業の生産現場でもともと自然発生的に採用されていた「セル生産方式」が、多品種少量製品を効率よく生産する方式として、このところ大企業で本格的に取り入れられている。 ところで、身近な注目すべき動きがある。本紙(七月二十七日付「地域アイ」)でも取り上げられているが、長年の伝統を誇る石積み技術を河川の護岸や砂防堰えんてい堤などに生かしていく群馬石積協同組合(柴崎文彦理事長)の取り組みである。従来の技術に改良を加え、強度による安全性も計測されている。年月を経ると、次第に周囲の自然と同化し共生する。水の流れを緩やかにし、生物の生息環境をつくり出し、自然を保全し景観の美しさを保つ。 しばらく前のことであるが、「利根川治水百年」のシンポジウムにおいて、これまでの成果を評価したうえで、私たちは子や孫たちのために、今後百年かけても生物多様性と自然の恵みを生み出す力を修復していく努力が必要ではないか、と発言したことが思い出される。 (上毛新聞 2004年8月30日掲載) |