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◎避けたい生態系の撹乱 昭和五十年後半ごろからバイオテクノロジーの波が押し寄せ、県農政部でもスタートしたが、すぐ技術者不足に直面した。その点、群馬大学医学部の微生物学教室(薬剤耐性菌施設)でDNA操作を実験手段の一つとしてある程度マスターしていたことが、その後の業界対応を含め育種・魚病・環境・バイオの応用へと幅が広がった。ここで、あらためて指導してくださった方々にお礼を申し述べたい。 さて、魚類でのバイオはニジマスの三倍体からスタートしたが、最初はこの説明に苦労したものである。大方の人たちは魚体が普通魚に比べ三倍も大きくなるものと誤解され、理解してもらうのに大変であった。普通の人工授精では卵に精子をかけて受精させるが、性比は一対一で、一尾の雄は雌の二十―三十尾分くらいの卵を受精させる量を持っており、魚の絶対数を増すのには雌が多いほどよい。また、利用価値もスジコ、子持ちアユなどと雌が多ければ好都合である。 まず、手始めに三倍体を作出した。簡単に手法を説明すると、受精後、この受精卵に加圧するか温水に浸つける処理(温水魚の受精卵は冷水)をすると、卵が持っていたXXの染色体は半減(極体を放出)せず、卵の持っていたXXと精子からのXかYのいずれかを持ち、XXXかXXY型の三倍体になる。本来、雌になるべきXXX型は不妊になり、卵を持たなくなるため、その栄養分が肉や骨となり大きくなるのだが、XXY型は飼育条件次第で精子を出すことがある。 この精子(XXY)と普通の卵(XX)を受精させると、すべて奇形になる。このことは自然界にこの魚が放流されると起きる可能性があり、この現象が起こると、生態系は大変なことになる。また、精子に紫外線を照射して中の核遺伝子を破壊しても受精能力だけは残っている。この精子を使用して受精させ、加圧か温度処理をすると、受精卵は雌遺伝子Xを二つ持ったXX型雌だけになる。 しかし、雄が不足するため、ふ化後、餌付けが始まると、この餌の中に男性ホルモンを混ぜて与える。そうすると、生殖腺せんを卵巣から精巣に分化させ雄になる。これを偽雄と呼ぶ。この精子の遺伝子はXだけで、雌の遺伝子しか持っていない。従って、普通の雌の卵と受精させても、すべて雌になってしまう。そこで、いろいろな魚種で試してみたが、短期間で大きくなり、さらに付加価値が付き、利益率の高い魚種はなかなか見いだせないで現在に至っている。 最後にコイを用い、精子に紫外線を照射して全雌処理を試みたことがある。その結果、出現したコイの色合いを見て驚いた。種々雑多な色合いのコイが生まれたのである。原因を考えたが、結論は精子に紫外線を照射し、受精させたものの遺伝子の断片が卵の中に入り、組み換え体のコイが出現したとの結論に至った。 サケ科魚類、アユなどではさほど形体の変化は認められなかったが、非常に危険を伴う仕事であることを再確認させられ、「混ぜず」「放さず」「逃がさない」をモットーに、間違っても生態系の撹かく乱らんだけは招かないように注意しなければならない。 (上毛新聞 2004年8月23日掲載) |