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◎100年先を視野に入れ 日常会話で四字熟語をよく使う。悪戦苦闘、意気投合、右往左往、栄枯盛衰、温厚篤実など、酒席の雑談でもごく自然に口から出てくる。しかし、同じ四字熟語でも切磋琢磨(せっさたくま)、臥薪嘗胆(がしんしょうたん)、跳梁跋扈(ちょうりょうばっこ)、毀誉褒貶(きよほうへん)、悲憤慷慨(ひふんこうがい)など、超難解な漢字が含まれていて、耳で聞けばすぐ理解できるが、手ではすらすら書けない例もある。 私は生来おっちょこちょいな性格なので、厚顔無恥を厚顔無知、単刀直入を短刀直入、危機一髪を危機一発などと、四字熟語の漢字の一部を間違え、国語の試験で減点された思い出がある。四字熟語を逆手にとって、漢字の一部を意図的に置き換えた広告文を見たことがある。「彩色兼美」というカラー複写機の宣伝である。優れた機能と美しい色彩を兼ね備えていると解釈できる。言うまでもないが「才色兼備」のもじりである。 余談だが、私の現在の心境は「書志貫徹」である。本欄の原稿を最後の出番まで書き続けようという志を貫くという意味で、もちろん「初志貫徹」のもじりである。 四字熟語の大半は、中国古典に載っている。四面楚歌、呉越同舟、合従連衡(がっしょうれんこう)、不倶戴天(ふぐたいてん)、画竜点睛(がりょうてんせい)、羊頭狗肉(ようとうくにく)など、中国の歴史に登場する表現が現代の日本でも広く使われている。しかし、日本には知られていない表現も無数にある。 打草驚蛇(草を打って蛇を驚かす)=薮をつついて蛇を出す 樹大招風(高い木は風当たりが強い)=出る杭(くい)は打たれる 捨華求実(花を捨てて実を求める)=花より団子 四字熟語は深遠な内容を簡潔に表現できるから、中国語の造語法に倣って日本人も四字熟語を次々に作った。天孫降臨、神仏混淆(こんこう)、士農工商、尊王攘夷(じょうい)、文明開化、富国強兵、所得倍増、損失補填(ほてん)、援助交際など、日本史も神代から現代風俗まで四字熟語だけでつづれる。日本人は中国伝来の四字熟語を自家薬籠(やくろう)中のものにして自由自在に使いこなしている。 わが家では日中文化交流事業を推進している民間団体から依頼されて、訪日研修団員として来日する中国人大学生の民泊を何度も担当している。異質文化を理解するには民泊が最も効果的な教育の場である。宿泊を担当する側も遠来の珍客から新鮮な刺激を受けるから相互に勉強になる。 中国に「十年樹木 百年樹人」という成句がある。木を植えるには十年先を考え、人を育てるには百年先を視野に入れておけという教訓である。割りばしくらいの苗でも十年後には見上げるような大木になる。将来有望な優秀な中国人大学生の民泊は、地道で息の長い百年の大計である。今後も中国語を学びながら、若い世代の育成を支援する国際奉仕活動に微力ながら貢献できれば…と望んでいる。 (上毛新聞 2004年8月22日掲載) |