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◎人畜無害農薬の開発を 昭和三十年代までは、日本の農家は(一部地域を除けば)大方、養蚕と米麦の生産を中心とした農業を、その傍ら野菜や果樹を作り、家畜も飼育し、自然農法の自給自足の農業経営をしていたのである。 農産物の生育に欠かせない肥料として魚粉や化学肥料等もあったが、当時、現金収入の少ない農家とっては必要最低限の購入で、一般的には麦わら、稲わら、落ち葉、刈り草、家畜のふん尿等で作った堆たい肥ひを利用していた。農薬もあったが、今ほど大量に使用されなかったため、残留農薬、健康被害等の問題は話題とならなかった。 昔も今も、人は常に食べ物の安全について注意を払うことを怠らない。昔は食べ物の腐敗の確認と食べ物の食べ合わせによる中毒等を心配した程度で、農産物そのものが農薬等で汚染されることについて関心度も低かったように記憶する。 今、食の安全が騒がれ、問題となっているのは、国民の生活水準の向上ならびに健康志向の高まりの中で、マスコミがそれを重要記事として頻繁に取り上げるようになったからである。遺伝子組み換え作物の食品への混入や中国野菜の残留農薬ならびにBSE(牛海綿状脳症)の国内発生等の問題がその発端となったが、無登録農薬(国の承認を得ていない農薬)の販売および使用問題、鳥インフルエンザ発生等がこれに拍車をかけた。 このように食の安全の中身は複雑多義化してきているので、国民は食べ物の安全を生産・流通・加工面のみならず、輸入食料や海外から来る病気等にも常に関心を示し、注意を払う必要があるのである。 ここで野菜等の農産物について、生産者の立場から、その取り組みについて紹介したい。現在、農家では販売を目的とする農産物について、農産物の栽培履歴(トレーサビリティー)が義務付けられ実施されている。トレーサビリティーとは、農産物の品目ごとに指定農薬があり、同農薬適正使用基準に基づいて使用した月日、使用した農薬名、希釈倍率、散布量、使用回数等を記載し、最低三年間、その記録を保存することとなっている。 農家にとって、これらの管理は今までになかったことであり、煩わしく面倒であるが、順守せねばなるまい。それが、消費者に対する信頼となって表われ、国内農産物の消費需要を高め、最終的には生産者に跳ね返り、増収増益の農家経営へとつながるからである。 現在、JAでは食の安全安心について正面から取り組み、全国運動を展開している。農家はこの運動に呼応し、販売する農作物の安全について心して生産に従事する必要がある。 最後に一言、食の安全は一つには農薬の不使用にあるが、現代の農業は農薬なくして成立し得ない面があるので、農薬メーカーに「人畜無害農薬」の開発を願いたい。そして、消費者の皆さんにも「虫食いも病根もない無傷の野菜」のみ生産者に要望しないで、「傷等のある野菜」も購入の仲間に入れていただきたい。それは農薬使用量の減少につながり、結果的には食の安全ならびに国民の健康につながると思うからである。 (上毛新聞 2004年8月18日掲載) |