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自分で見つけて実践 測量士 小板橋 武さん(中之条町中之条)

【略歴】群馬高専土木工学科卒。測研代表取締役。群馬市民大学講座理事。JR吾妻線を支援するライブやCD制作などの音楽活動、「あがつま語辞書」発行などの執筆活動を続けている。

喫茶店主の地域づくり



◎自分で見つけて実践

 コーヒー一杯が至福の時間。そんな心の余裕も許されなくなったのか、「小さな喫茶店」の数が激減しているそうです。出張で東京に出かけても、目立つのは大手の喫茶チェーン店の看板ばかりです。価格や味、マニュアル化された接客、内装や立地条件、さすが大手喫茶店だと感じさせる経営ノウハウがあります。

 しかし、その一方で、地域のニーズに根差した喫茶店の存在がクローズアップされています。「大手に対抗する小さな喫茶店の生き残り策」などと肩ひじを張らないで、地域に溶け込み、地域の文化や活性化に見事に貢献している中之条町の喫茶店の中から三人の店主を紹介します。

 JR中之条駅前にある「キャロリア」店主の湯浅昌雄さんは、四万温泉の宿泊客が午前中に早々と電車に乗って帰ってしまったり、電車の待ち時間を何もしないでいる姿を毎日、見ていました。観光客に町の名所や旧跡を案内し、旅の思い出づくりのお手伝いができればとの思いから、昨年六月に中之条観光ガイドボランティアセンターを発足させました。

 湯浅さんの呼びかけに賛同した有志が、ボランティアに応募。観光ガイドの養成講座や現地研修を経て、現在三十人を超える方々が観光ガイドとして活躍しています。案内する側と、される側が、一期一会を笑顔で結び合い、観光ガイドの詰め所でもある喫茶店は、町内外の人々の交流の場となっています。

 西中之条の四万街道沿いにある「珈琲壱番館」店主の石井すみ子さんは、店内の壁を絵画や書道、切り絵やパッチワーク、写真など、地域で活躍する作家の作品展示スペースとして提供しています。作品の展示内容は一―二カ月周期で様変わりし、小さな喫茶店がまるで美術館のようです。

 作品を発表する“町の芸術家”の緊張感と照れ。無料で発表の場を提供する店主の思いやり。店内の温かな雰囲気に、「田舎だけど、なかなかいい町だ」と思いながら、コーヒーを飲む客。地域の文化に心を癒やす、安らぎの空間が形成されています。

 同じく西中之条の主要地方道大道横尾線沿いにある「ふうらい坊」店主の高橋佐代子さんは、アコースティック系のプロやアマチュアのミュージシャンのライブにお店を提供しています。五十席ほどの小さな会場ですが、音楽を愛する人々ばかりが集う雰囲気が気に入って、採算を度外視しても毎年この店で演奏したい、というプロもいるほどです。

 若者だけを意識したマーケット優先の音楽ではなく、地域や世代を超えて誰もが楽しめる音楽を提供するという高橋さんの姿勢が、演奏者と観客との一体感を醸し出します。生活の中に、それも身近な位置に音楽がある町、住んでいてよかったと喜びを感じます。

 中之条町の三人の喫茶店主の共通点は、行政や組織を安易に頼らず、自分なりの地域づくりを見つけ、自分なりに地域づくりの行動を実践していることです。これが地域づくりの原点であり、この積み重ねが、地域の活性化に結びつくという手本を見る思いがします。

(上毛新聞 2004年7月19日掲載)