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◎学ぶ過程に意義がある 私の学生時代にロシア民謡が爆発的に大流行していた一時期があった。歌声喫茶と称する店があり、音楽家が弾くアコーディオンの伴奏で大勢の客が声をそろえてロシア民謡を歌っていた。私も時代の影響を受けてロシア音楽に熱中し、レコードが擦り切れるほど繰り返し耳を傾けた思い出がある。 金管楽器の総奏で華やかに始まるチャイコフスキーの第五交響曲や、華麗な管弦楽の技巧を駆使した『大序曲1812年』や『イタリア奇想曲』などが特にお気に入りだった。また、ショスタコービッチの管弦楽伴奏の合唱曲『森の歌』は、私どもの娘が小学生時代に合唱団に入って群馬音楽センターの舞台で歌ったことがあるので、格別な思い出のある曲である。 五月に高崎市国際交流協会が企画した一般市民向けのロシア語講座のお知らせを目にして、私も申し込んでみた。講師は高崎市在住のロシア人女性である。ロシア人の指導でロシア語を学ぶのは、生まれて初めての体験である。 実は学生時代にロシア民謡のレコードのジャケットに書いてあるロシア語の歌詞が読めればいいなあと感じたのが契機となり、入門書を買い込んで独学で手を出してみたことがある。しかし、超難解で歯が立たず、その上、熱しやすく冷めやすい性格も災いして、わずか三日で放り出してしまった。それから瞬く間に四十数年の歳月が過ぎ去った。 Кто не работает,тот не ест. 「働かざる者は食うべからず」という格言がある。額に汗して厳しい農作業に従事した者だけが、その正当な報酬として農作物が、つまり食べ物を手にすることができる。怠けていては食っていけない貧しいロシア農民社会に昔から伝わる人生訓である。学習という行為もまた然(しかり)である。 Москва веками строилась. 「モスクワは何世紀も要して建設された」という格言も習った。「ローマは一日にして成らず」と同じ意味だが、ロシアの格言にはモスクワが登場する。ロシア語の習得も一朝一夕では成就しない。 Учиться никогдане позно. 「学ぶに遅すぎることなし」という晩学の勧めの格言がロシアにもある。生涯学習は人類共通の認識といえる。高齢者が何か新しく学び始めても、真剣に取り組めば必ずものになる。そのロシア語講習会の十八人の受講生の中で、古希の一歩手前の私が最高齢者である。若いお嬢さま方と机を並べて講師の指導を受けていると、学生時代に舞い戻ったような若々しい気分になる。 学習という行為は成果ももちろん大事だが、学ぶ意欲や姿勢とともに、学んでいく過程も無視できない。私は結果よりも途中経過の方が有意義だと常々感じている。 (上毛新聞 2004年7月6日掲載) |