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◎初心貫き常に実行を 先般来、この欄で述べてまいりましたとおり、社会構造、人口構造が大きな変化を遂げ、私たちの生活にも急速な変化が生じ、価値観、倫理観が多様化しています。そうした今日こそ、新しい環境づくりが最大の課題ではないか、と考えます。 それぞれの地域で、関係者が苦労され、それぞれの立場で精進されていることは、マスコミ等でも報道されていますが、お互いに喜び合い、感じ合える、もろもろの交流関係が構築できれば何より、と考えます。お互い人間は、それぞれ価値観は異なりますが、人間としての目的、真の生きがいと幸せを何に求めているかを親しく話し合える仲間が多いほど、人間としての幸せの分量が多いのではないかと思います。 私たち人間は、第一に自然環境、第二に家庭環境と親、祖先よりの肉体的精神的遺伝によって形成される、といわれています。作家の吉川英治先生は「我(われ)を生みしは母にして、我を人にせしは師なり」と申され、良き師との出会いが、人生目標の明確化と運命を変える原動力となり、自己実現への道が自覚できるということを、多くの先人より教えていただいたことを、しみじみと思う今日であります。 自分自身の人生を真に実りあるものにするには、夢と希望を新たにすることではないでしょうか。自己の可能性に挑戦することだと思います。それは突然に、立志できるものではありません。日ごろの累積により二十代の生きざまが三十代の人生を形づくり、三十代の生きざまが四十代の人生を形づくり、四十代の生きざまが五十代の人生を形づくって、より良き人生へのチャレンジによって、次の世代の人生ドラマが創造されるのではないでしょうか。 ただし、途中には艱難(かんなん)が多く、自分自身との戦いに打ち勝つには、ハングリー精神に徹することが大事だと、私は思っています。先般来、六十年にいたる農業人としての生き方を述べてまいりましたが、動機目的をとらえ、初心に基づく実行の継続以外、何もないことを、ここにあらためて確認の意味で述べさせていただきます。それは人間としての生きる心、魂の問題にあると思います。 私も長く一つの精神科学を学ばせていただきましたが、どんな社会体制の中でも、民族、人種、国家、家族を超えて絶対に変わらない人間の基本は、社会の規範に従い得る能力を有する精神的に健康な人になることではないでしょうか。 昭和六十一年九月、EC(欧州共同体)の農業視察の折、オランダの農村で見聞したことですが、日曜日、それぞれの教会で祈りをささげている人たちを拝見し、感激しました。自然は神の創成であり、われわれは神の恵みによって今日があります。その恵みに報いるべく、私たちの世界は私たちの手でとの謙虚な生き方を見せていただき、私たちも心を新たにして進みたい、と感じたものでした。農業人ゆえに、二宮尊徳の歌を次に掲げさせていただきます。 「この秋は 雨か嵐か知らねども 今日のつとめの田草取るなり」 (上毛新聞 2004年7月3日掲載) |