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◎ダム湖でも魚道検討を サケ科魚類の交雑種の研究は、元水産庁淡水区水産研究所(日光支所)で進められていた。当時の所長、今は亡き白石芳一博士がサケ科魚類の交雑試験の結果から所有していたイワナの純粋さに疑問を持っていたのか、「どこかにイワナの純系はいないかなあ」と言われたのが頭の隅に残っていた。 川場養魚場(川場村)に赴任した折、その言葉を思い出し、純粋なイワナを探してみようと村の人たちに相談した。ちょうど養魚場の隣に、山に詳しい宮内進氏が住んでおられ、心当たりがあるので案内しよう、と引き受けてくださった。そこは、あまり人が入らない村の奥に位置する武尊山で、クマよけの鈴を腰に巻き、背負子(しょいこ)にタンクと水に空気を注入するエアーレーション装置をセットし、たも網などを持って出かけた。 相当登ったところで、かすかな水音が聞こえた。やぶを切り開くと細い沢があり、幅二十―三十センチくらいの水たまりがあった。よく見ていると、ドジョウらしき魚が見え隠れしており、少し離れた上流でまた二匹見つかった。捕まえてみると、まさにドジョウのようなイワナであった。この中に雌も交じっており、数粒の卵を持っていた。 何日か通い、合計七十六尾の地付きイワナを捕獲できたのである。追加した小型魚はさすがに悪食と呼ばれるイワナらしく、すぐに共食いされるので、別の池に収容した。ちょうどニジマスの採卵時期で、過熟卵など不用な卵を与えながら徐々に配合飼料に切り替えた。この過程は神経質なヤマメとは明らかに違っていた。 まず、DNAの観察である。これは宇都宮大学の上田高嘉教授にお願いした。染色体数の確認をしていただいたところ八十四本で、十尾ともそろっているのは非常に珍しく、普通はばらつきが見られるとのことだった。そこで研究所のイワナと地付きイワナを飼育しながら比較したところ、ふ化後の餌付けも順調に進み、成長にも優れ、やはりその土地に長年定着していた生き物の特性である「種の特異性」がすぐ認められた。 本来、河川ではヤマメとイワナは一〇度ぐらいの水温を境に、低いところにはイワナ、少し高いところにはヤマメと「すみ分け」している。そこで比較的水温の高いと思われる水で双方飼育してみると、やはりイワナの生残率の方が劣るが、飼育は十分可能であることが分かった。 しかし、放流種苗として双方を考えた場合、ある程度の高水温でも生息可能ではあるが、放流河川でイワナが本来好む低水温の上流域に上れない場合はどうなるのであろうか。余儀なくヤマメと同居せざるを得ず、交雑種の出現となるのではないか。 この心配が県内の河川やダム湖での魚類調査でヤマメとイワナの交雑種が採補され、現実となった。一方、「魚のすみやすい川づくり」などを目標に掲げ、魚道などを設置しているが、河川だけでなくダム湖でも流入河川に上れない状況を見るにつけ、砂防堰堤(えんてい)や落差工などに安易に魚道を設置するのも考えものだろうが、貴重種が生息する場合には魚道についても、その必要性を十分検討しなければならない。 (上毛新聞 2004年6月29日掲載) |