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◎社員のモラル高揚が鍵 平成のバブルの崩壊は、わが世の春を謳歌(おうか)した日本経済を未曽有の奈落の底に突き落とすほどに強烈な打撃を与えました。その結果、日本経済はかつて経験したことのない経済変動・社会変動の大波を受けました。 特に不動産業、建設業が大きな影響を被り、これを下支えした金融機関も大きな打撃を受けて、日本長期信用銀行、日本債券信用銀行が破はたん綻。近くではりそな銀行が二兆円の公的資金注入を受け、足利銀行が民事再生法の適用を受けて破綻するなど、日本経済、地域経済に深刻な影響を及ぼしています。今年三月期決算を見る限り、大企業では業績回復が見られますが、地方経済や中小企業の景気回復には相当の時間がかかるものと思われます。 私は最初の勤務先であった空調機メーカーを退職して設備業界に転じ、さらに一九七八年からは神奈川県内の中小建設業者を相手とする代書業に転じ、傍ら経営指導を兼ねて今日に至りました。設備業界在籍時代の体験と、その間に吸収した知識が今日の私をつくり上げたのです。設備業界と行政書士・経営コンサルタントとしての四十年間に体験し、経営改善に取り組んできた幾つかの事例について紹介しましょう。 設備業界に身を投じた私が最初に取り組んだことは、計画経営の導入でした。中小建設業の最大の弱点は、成り行き経営・ドンブリ勘定でした。建設業界は製造業や小売業と異なり、受注産業であるということです。あらかじめ生産計画や販売計画を作って、企業経営をすることはできません。そこで考えたことは、目標利益を策定し、これを達成するための必要経費を算定。この二つの数値から受注目標・売上目標を設定する方法でした。 つまり、売上高とは、利益と経費と原価の合計額として把握するということです。営業部門では年間、月間の受注目標と目標利益率を定め、取引先の与信枠を設定してリスクの防止に努めました。工事部門に対しては、建設業の特性である個別原価管理を徹底しました。 そのため、積算原価の統一はもちろん、協力業者との間に年間価格協定を結び、単価差異から生じる利益減少防止を図りました。その上で現場に権限を与え、義務を課しました。実行予算編成と予算に基づく発注権、工事台帳による原価把握と実行原価報告、予算・実績の差異分析がそれでした。 その結果、積算ミス・工事ミスが激減し無駄・無理が排除され、利益が増大して資金繰りも安定し経営改善が図られました。この管理手法確立のために、社長以下全従業員の説得に時間を要しましたが、導入後は年度利益計画を全社員に公表し、目標利益を超過した場合、その超過利益の二分の一を成果配分として決算賞与の形で支給しました。 特筆すべきは、この賞与は会社が支給するものではなく、社員全員の努力の成果としての配分でした。これによって、社員の勤労意欲高揚に大きく役立ったことはいうまでもありません。中小企業の場合、いかに社員のモラルを高揚するかが企業経営のポイントであることを、身をもって体験した事例でした。 (上毛新聞 2004年6月28日掲載) |