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◎志ある市民の和で継承 「人生はマラソンのようなものだ」と教えられて育った。ならば、マラソンで走る距離四二・一九五キロを年齢に置き換えて、自分の一生を四十二年とした人生計画表を作成したのが十七歳の春だった。 おかげで、大学を卒業して社会に出る前に「ダッコちゃん」人形を企画デザインでき、二十世紀の歴史に残る大ブームとなった。在学中から仕事が殺到し、やりたいことを好きなだけ自由に選んで二十年。計画はもれなく達成し、仮定の一生が完結したので、自分の墓も用意した。が、幸か不幸か、墓の使用だけは未達成で、いまだに生き恥をさらしている。 ゴール地点の郷里の墓所で、四十男の脳裏をよぎったのは、中原中也の「帰郷」の一節だった。 これが私の故里(ふるさと)だ さやかに風も吹いてゐる 心置きなく泣かれよと 年増婦(としま)の低い声もする あゝ おまえはなにをして来たのだと…… 吹き来る風が私に云(い)ふ で、時間延長。第二ラウンドは、わがままにやりたいことをやらせていただいたお礼に、「やらなければならないこと」を時間のある限り、やらせていただくと定め、これまでの来し方を顧みて、「人と人との出会いは個人の限界を超え、人の運命を変え、時には歴史をも動かす」というコンセプトで、さまざまな分野の先人との出会いや人生模様を『運命の出会い・その光と影』と題して上梓(じょうし)した。 その上梓に前後して、群馬からの講演や仕事が増加し、渋川市の日本シャンソン館(芦野宏館長)の企画設計、21世紀の森のロゴデザイン、高崎市制百周年のシンボルマークデザイン、ブルーノ・タウトのテレビ番組製作、群馬県人会(山崎富治会長)の立ち上げ、タウトの構想を引き継いだ創造学園大学(小池大哲学長)の開校、同学長尽力によるタウト資料館の開設等々。やらなければならない群馬の文化振興と人材育成案のすべてが、やりたいこと同様、鴻鵠(こうこく)の志ある方々に助けられて短期間に実現できたのは、感謝のほかはない。 群馬の文化振興に井上房一郎ありと言われた大パトロンを失って以降、一時、文化振興の起案を躊躇(ちゅうちょ)していたが、粗忽者(そこつもの)にも救う神ありで、この夏、タウト来県七十年を記念して、来県した八月一日(日)に地域の文化振興支援、パトロンの在り方のシンポジウムを創造学園大学主催で開催できることとなった。 当然、パネリストは群馬の文化振興に貢献大の日本シャンソン館の芦野館長、山種美術館の山崎富治館長、創造学園大学の小池学長のお三方に出席いただく。井上翁のような大パトロンなき時代の文化支援は、志ある市民のご協力の和をもって継続させたい。この群馬には、その知のDNAが存在する。 (上毛新聞 2004年6月18日掲載) |