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県立歴史博物館長 黒田 日出男さん(東京都練馬区)

【略歴】東京都生まれ。早稲田大卒、同大大学院修了。東京大史料編纂所教授、文学博士。第7回角川源義賞受賞。著書は『龍の棲む日本』(岩波新書)『謎解き 伴大納言絵巻』(小学館)など十数冊。

博物館の常設展示



◎モノとの対話で発見が

 県立歴史博物館が群馬の森の中に開館して二十五年になる。展示のメーンはもちろん、常設展示である。少し以前からリニューアルを検討し始めていたのだが、県財政の悪化の中では当面、不可能になってしまった。致し方ないことだ。

 そこで、改めて考え直した。今の常設展示は魅力的であるのか、ないのか、と。まずは、常設展示を何度も歩き回ってみた。少しずつ常設展示は変えられているのだが、それが効果的に演出・情報提供されていない等々、改善点がいくつも見えてきた。

 結論的には、今の常設展示の枠組みを生かしつつ、豊かな館蔵品を活用、かつスタッフのアイデアを結集すれば、少なくとも今しばらくは、十分に魅力的であり続けられるように思われた。県財政が持ち直してくるまでは、そのような工夫を凝らしていくことにしたい。

 問題点は、むしろ別の角度から表れてきた。以前から気になっていたのだが、常設展示は本当に見られてきたのか、という疑問が浮上してきたのである。入場者たちの様子をさりげなく観察していると、総じて常設展示の見方は淡泊である。小学生の団体などは走るように回り、あっという間に去っていってしまう。

 常設展示というのは、群馬の歴史を“モノ”によって語っている。一つ一つの展示品をじっくり見て、見る側が自由自在に問いかけることで、興味深い歴史を読み取ることができる。例えば、埴輪(はにわ)の一つ一つ、あるいは石碑などの表情、どれもがじっくりと見ることによって、いろいろなことを感じさせてくれるはずなのだ。県民の皆さんは、常設展示をじっくりと見ておられますか、展示品と問答をしておられますか、と問いかけたくなってきた。

 常設展示とは、何度も楽しむものなのである。展示物の見える側だけでなく、その裏側を想像してみたり、なぜこれらの“モノ”が残されてきたのかを考えてみたり、要するに歴史を想像して楽しむところが、常設展示という世界であろう。

 一回で全部を見た気になるのではなくて、今日は古代を、次に来たときには近世をというように、じっくりと“モノ”と対面し、観察することをお勧めしたい。思わぬ発見が、しばしば得られるようになるはずである。美術館での鑑賞が、ある作品の前での時間を忘れた感動となるように、博物館での“モノ”との対話もまた、時間がたつのも忘れる感銘を得られるようなものでありたい。

 そのためには、もちろん、博物館側のさまざまな工夫と改善が必要である。解説の小さな文字は、わたしのような視力の弱い者には読みにくい。改善点の一つだ。他方、県民の皆さんにも、企画展のない時期や平日こそ歴史博物館を訪れ、常設展示を楽しく、深く見る機会を持つように希望したい。博物館や美術館を「見ること」は、素晴らしい文化享受の仕方なのだから。

(上毛新聞 2004年6月11日掲載)