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NPO法人「お互いさまネットワーク」代表 恩田 初男さん(館林市北成島町)

【略歴】村田簿記学校卒。税務会計事務所、音楽出版社に勤務。2000年からNPO法人「お互いさまネットワーク」代表。痴呆の人のグループホーム、有償ボランティア事業に携わる。

親子の絆とは



◎近くの他人にも限界が

 私たちの法人では、会員相互の助け合い活動を行っています。利用者は独り暮らしの方や夫婦のみの高齢者の方が多く、その内容は掃除洗濯、用足し、通院介助などさまざまです。この活動で出会う方たちを通し、将来の親子関係の在り方に不安を感じています。

 経済発展に伴って核家族化が進み、家族の人数が減少し続けているのは、時代の流れかもしれません。子供が成長するに従って手が掛からなくなり、学業を終えて仕事を始めれば、ある程度、金銭的な心配もなくなります。子供が経済的に自立するころには、親は夫婦だけの生活となり、子供には負担を掛けたくないという気持ちから、子供には面倒を見てもらわない老後の生活を考えるでしょう。

 老後のことは自分だけで解決するということは、潔く称賛に値しますが、老いることは潔さだけで乗り越えられるでしょうか。私たちが活動を通じて出会った人の中に、独り暮らしの高齢の女性の方がいます。ご主人は五年ほど前に亡くなられました。夫婦で公務員をされ、二人の息子さんは今五十歳代で、二人とも館林を離れて遠方で独立した生活を送られています。日常的には不自由なく、調理や掃除など一人でこなしていましたが、玄関を出たところにある踏み石につまずいて転倒、足を骨折し手術となってしまいました。私たちは入院中の洗濯や用足し、食事のお世話をすることになりました。

 二人の息子さんには入院、その後の手術に関して連絡を取りましたが、駆け付けるどころか、病院と当会に「すべてお願いします」とのことでした。ご本人も子供たちが来てくれないことでがっかりされ、私たちに愚痴を言っていました。息子さんたちは仕事や家庭の事情などで、病院まで来ることができないとのことでした。まさに「遠くの身内より、近くの他人」という状況でした。

 しかし「近くの他人」も限界があります。私たちは、ご本人の要望に沿った支援を行いましたが、こまごました用事はできても、病院からのけがの状況説明や治療方針、金銭的な処理、退院後の生活などについて、家族でなければ相談できないことや、決めることができないことがたくさんあります。ご本人だけで問題が解決できなくなったとき、最終的に重要なことは、子供に頼るしかないことを実感しました。子供がいなければ兄弟姉妹でしょう。

 老後は子供の面倒にはならず、体が不自由になったら施設で生活する、と考えている人は多いと思います。この方もそれと同じことのようでした。息子さんも普段からご本人の希望を知っていた様子で、「今さら」という態度です。

 病気やけがなどで、不自由になってしまったときには、身の回りの世話はしてもらわなくても、子供に何らかの負担がかかるものです。面倒にならないことが、かえって親子の絆きずなや思いやりまで薄らぐ結果にならないでしょうか。私は子供に最低限の負担や面倒を見てもらいたいし、息を引き取る時には周りに妻や子供にいてもらいたいと望んでいます。

(上毛新聞 2004年6月10日掲載)