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◎自己統制力の養成を 最近、他人の人権や尊厳の無視、人命の尊さや重さの軽視、他人の痛みや思いやりに対する気くばりの欠如など、人間として最も大切な感情や資質に欠けるような事件が多発しています。 その中でも、「三歳児に暴行を加え、死体をゴミのように捨てる」「小二女児を縛って殴り、電気ショックで虐待死」「ベビーベッド柱に長男をたたきつける」「一歳児が衰弱死、食事与えぬ母親逮捕」「五階から女児落とす」「食事与えず中三重体」などと新聞で報道されるように、児童虐待が深刻化しています。最愛の親、信頼している親が何の抵抗もできない児童を虐待する。どうして、こうも悲惨でむごいことが相次いで発生するのか。怒りや、やりきれない思いと同時に、その動機や要因を考えざるを得ません。 虐待は、児童の身体に傷跡が残ったり、生命が危うくなるようなけがをさせたり、苦痛を与える身体的虐待、児童の存在を無視したり、罵声(ばせい)を浴びせて情緒不安定にさせたりして心に傷をつくる心理的虐待、適切な衣食住の世話をしないで、ほったらかしておくなどの養育怠慢や放置、拒否などの虐待、性的ないたずらや性行為で児童の人間形成に大きな影響を与える性的虐待があります。 これら虐待を引き起こす要因として、親に人権や暴力についての正しい認識や情報がなく、また、自尊感情が低く強いストレスなどがある個人的要因、夫婦間や家族間の人間関係、親自身の生育歴、孤立などの社会的要因、失業・住宅事情・暴力を容認する社会的認識などの環境的要因が、一般的に挙げられています。 身近な問題とすれば、以前は大家族制のもとで子供のころから子育ての体験ができたのに、現在は核家族でその体験が得られないこと、少子化の中で孤立・孤独化し、人間関係が希薄になっていること、人間は高等動物なるがゆえに、他の動物と異なって一人前になるまで他人の支援が必要であるとの本質的な知識が乏しいこと、しつけと虐待の区別がつかないこと、そして、それ以上に自己統制力が弱くなっていることが考えられます。 こうした状況から、平成十二年五月には「児童虐待防止法」が制定され、各地でも虐待防止のチェックリストや手引き、通報マニュアルなどの作成、虐待防止活動サポートチームの結成など、幅広い活動が展開されています。 在職中、学級担任の先生方にお願いして、児童生徒の実態調査をしたことがあります。その折、虐待ではないかと思われる事例があり、さっそく全保護者に通知したり、市広報で市民に協力を呼びかけたり、児童相談所に調査をお願いしたことがあります。 しかし、家庭内の密室的行為で、しかも児童らは決してそれらを口外しないため、対応は大変難しい問題を含んでいます。一番大切なことは、自己の感情に流されないで、忍耐力などで自己を制御し、善い方向へ自己を導く自己統制力を養成する教育を、もう一度考える必要があるように思います。 (上毛新聞 2004年5月23日掲載) |