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東京経済大学教授 田村 紀雄さん(東京都八王子市)

【略歴】前橋市生まれ。太田高卒。東京大学新聞研究所、カリフォルニア大、中国対外経済大等で研究教育に従事。お茶の水女子大、埼玉大等で講義。東京経済大で学部長、理事歴任。日本情報ディレクトリ学会会長。

NIE運動



◎若者は新聞を読むべき

 NIEという運動が注目を集めている。簡単に言ってしまえば、「新聞を利用した教育」ということだろう。教育といっても、学校教育の中のカリキュラムに組み込まれた制度ではない。家庭の中での談論に新聞記事を材料とする、小学校で新聞記事の切り抜きを整理して学習の一助とする、中・高校で学級新聞や学校新聞を実際に発行してみる、大学で経済記事を分析して世界経済の動向を研究する。要するに、あらゆる角度から学習・教育を新聞と結び付けて考える、ということだ。

 全国の主な日刊新聞が協力して新聞教育文化財団というのを数年前に立ち上げた。この財団の仕事の一つが、NIE教育の普及である。最近、会報を読んでいたら、新聞をめぐっての小学生とその親との座談会があった。「新聞が楽しい」という親子の座談会である。

 この財団のもう一つの仕事が「新聞博物館」の運営である。日本が外国に開港した明治初期の歴史的建造物がたくさん残る横浜港の一角に、博物館がある。新聞を展示して、歴史を教えるのが仕事だ。私も、研究の必要から世界中の古い新聞が集まったので、個人で保存するよりはと考え、何百種類もの新聞の原紙を新聞博物館に寄付した。これからも、大学の研究室や書庫を整理して、古い新聞原紙を寄贈続けたい。

 学校での「新聞を利用した教育」には、新聞の原紙のほかに、マイクロフィルム、切り抜き、新聞学(ジャーナリズム)関係の図書など、素材は広い。早い話が、新聞に毎日のように折り込まれている無数のチラシ類を集めて、地域社会の商店街の動向や消費者の行動を調査する学習だってできる。

 ところが、新聞を購読していないと、このようなチャンスはない。親元から通学している小中学生は自宅で新聞に接触しているわけだが、下宿などしている大学生や若い勤労者の新聞購読率は低い。

 こんなエピソードがある。先月のこと、私がある都市で「マスコミ志望」の学習会に招かれ、ジャーナリズムについて語った。二十人ほどのグループで、最後に「毎日、新聞を読んでいる人」と尋ねたら、三人だけであった。だからといって、彼らが社会の動きに無知だというわけではない。テレビ、ケータイ、口コミで、おおよそのことは知っている。だが、これらの情報の大本は、実は新聞なのである。

 新聞記者が取材し、記事にしたものが、伝達・伝聞されて、新聞の非購読層にも伝わる。

 私は、これから学問をしようという若者は少なくとも、オリジナルに新聞に接触する必要があると考えた。そこで、勤務先の大学に「ジャーナリズム・コース」を設けたのを機会に、誰でもいつでも新聞が読める「ニューズルーム」を設けた。ここでは、主な日刊紙が読めるだけでなく、切り抜いても構わないのである。大学版NIEだ。

(上毛新聞 2004年5月16日掲載)