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◎心の潤い大切にしたい ウィリアムズ症候群と呼ばれる人々がいます。人の心に敏感で、高い共感能力を持ち、西洋の童話で「妖精」に例えられます。現代は「乾燥社会」とも言われています。このような社会に生きている、われわれ人間の心が乾燥してしまうのは、当たり前かもしれません。 しかし、情があり、心の温かい人もたくさんいます。アマゾンの秘境に住む「ヤノマミ族」と呼ばれる人々は感情が豊かで、どこか古代人に似ているようです。古代人は現代人に比べて文明的に低いのですが、豊かな精神文化があったに違いありません。風の声を聞いたり、自然に対する研ぎ澄まされた感覚や英知を備えていたのでしょう。文明が豊かになればなるほど、精神文化や自然への反応が失われていくのは確かです。 魂に直接、触れる音楽を「ヒーリング・ミュージック」と呼ぶそうです。「ヒール」とは英語で「癒やす」という意味ですが、昨今はこの「癒やし」という言葉が頻繁に使われ、小生のような凡夫にとっては漢字も難しく、癒やされない気がします。本来の意味でのヒーリングも、古代人のような英知を知ることから始まるのではないか、と思うのです。 七色は、音の七音階にも似ています。アイザック・ニュートンは、六十二歳で光と色の理論(光学理論)を発表し、「光は粒子である」と言いました。人間は色やにおい、音に対して脳がさまざまな反応を示します。赤いオレンジ色は、脈拍、呼吸、心拍を安定させるというデータも出ています。例えば夕日を見ると脳がリラックスし、副交感神経に作用するようです。同時にチョコレートのにおいが加わると、効果が上がるそうです。また、脳の記憶とにおいは深い関係にある、と考えられています。 音楽には、風景、思い出、情、愛などさまざまな思いをわき出させてくれる力があります。乾燥した心も、潤してくれます。音楽療法の中に「モーツァルト効果」というのがあります。純粋で簡単な旋律がストレスや痛みを軽減してくれる、というのです。音楽療法は補完療法といい、手助けの一つですが、音楽で脳を刺激し、安心をもたらすことは間違いありません。音楽は人の感覚を変える不思議な力があります。 十六年ほど前、はなし家の柳家小さん師匠がテレビの番組で言っていました。「芸は一生。人物は人間性であり、人のいいとこ悪いとこを、分からないとだめだ。心が汚れているのはいけない。相手を大事にして、人に不快な思いをさせちゃあいけない」。師匠は、違う基準から見える鮮明な映像があることを、教えているような気がします。 精神文化や自然への反応など、人間本来の生き方、考え方をして、文明に負けないような心の潤いを持つことを、美徳として大切にしなくてはならないと思います。 (上毛新聞 2004年5月12日掲載) |