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◎信託された共有財産 今、環境問題の一つとして、病気や外傷を負った野生動物(傷病野生動物)の救護の必要性が社会一般に認識されるようになってきました。その背景は、野生動物の救護原因の多くが、われわれ人間の活動による環境破壊や汚染によるものが多いことが明らかになるにつれ、傷病野生動物を保護した人々が、無意識のうちにわれわれ人類の野生動物に対する責任を感じたり、また未来の子供たちを取り巻く自然環境を憂慮しているためと思われます。 傷病野生動物を救護することは、そのような心配を抱く人々や社会に対し、一つ一つの命を救うことや、絶滅の危機にひんする希少種を直接救うことで応えるのみならず、救護に至った原因を究明し、獣医学的情報、生物学的情報や環境科学的情報を得て、野生動物医学、保全生物学、公衆衛生の発展に寄与し、環境破壊や汚染状況を評価することができます。このようにして得られた知見は、生物多様性を保全し、健全な生態系を維持していくことに役立ちます。また、われわれを取り巻く環境問題に対する危機管理に応用できるでしょう。 ところが、日本の法律では現在のところ、野生生物は無主物つまり誰のものでもありません。そのため野生生物の取り扱いにおける責任の所在が不明確であったと思われます。 私たちにはできるだけ多くの野生生物種を保護し、可能な限り多くの良好な自然環境を後生に残すことが必要とされています。なぜなら、われわれは自然から衣食住のあらゆる物を恵みとして享受し、暮らしています。一つ一つの野生生物が構成する生態系が健全であればこそ、将来の世代が自然の恵みをわれわれと同様あるいは、それ以上に享受し、健康で文化的な豊かな暮らしを営む権利が保障されるのです。この考えは世代間倫理と呼ばれています。 このような視点に立って、野生生物は現在及び将来の市民から信託された大切な共有財産であると位置付け、その前提の基に一人ひとりが皆の財産であることを自覚して責任ある行動をとり、行政は市民に対し責任を持って、その保護管理を遂行することを明言する必要があります。 野生動物の救護活動において、再発防止や環境保全のためにも、私たちは傷ついた彼らから学ぶ必要があります。そして、前述したようなことを研究・実践する機能を併せ持つ野生動物救護施設を管理、運営していくことが求められています。このような施設は、訪れた人々に環境保全に関する教育機関としての、あるいはボランティアの機会を提供してくれます。獣医師も安心して野生動物の診療が行えます。 また、研究者が救護実績を調査研究することで、獣医学のみならず、人畜共通感染症や環境ホルモンなどの公衆衛生や、自然環境の保全上重要な事象を明らかにすることが可能となります。行政はその結果を受け、予防原則に沿って慎重に対応していくことで、環境問題の危機管理を行うことが可能となるでしょう。結果として、われわれ人間が安心して暮らしていける明るい未来が見えてくるのではないでしょうか。 (上毛新聞 2004年5月4日掲載) |