視点 オピニオン21
 ■raijinトップ ■上毛新聞ニュース 
高崎経済大学非常勤講師 林 不二雄さん(栃木県宇都宮市)

【略歴】山口県生まれ。県退職後、高崎経済大、宇都宮大、群馬工専の非常勤講師に。国土交通省関東地方ダム等フォローアップ委員会委員、同省河川水辺のアドバイサー、県河川整備計画審査会委員などを務める。

アユの冷水病対策



◎研究者育成する機構を

 長年、魚の育種に従事していたが、アユほどデリケートな魚はいない。現在、本県でアユの人工種苗生産を行っているのは水産試験場と、民間で初めて手掛けた渋川市の石坂庫平氏くらいであろう。ここで生産されたアユ稚魚は、放流サイズまで中間育成業者のところで育てられた後、各漁業協同組合に引き取られ、県内の河川に放流されている。そこで、これらの放流種苗が健苗であるか否かが最初の問題である。

 アユの種苗生産段階では幾多の関門を通過し、水産試験場内施設での生産計画尾数は十分確保できていたものの、さらに増産するため、平成十一年に飼育施設が増設された。が、育種技術の未熟さから生産尾数は減少の一途をたどり、余儀なく県外から補充をしているのが現状である。

 平成四年ごろから放流稚アユが自然と消えてしまい、解禁時にはアユが川にほとんど生息していない状況が続いた。これは全国的な現象で、養殖アユの飼育状況から初めて冷水病(フラボバクテア菌)と分かった。薬剤による治療も最初は効果が認められていたが、これも長くは続かなかった。一方、河川で生き残っているアユは縄張りをつくる活力もなく、群れをつくり、結果としてアユは泳いでいるが、釣れないと酷評され始めたのである。

 現在は、この病原菌が他の自然生息魚に感染し、大型アユの追加放流魚にも感染するケースが起きている。また、これらの菌株が越冬し、春先の放流アユに感染する危惧(きぐ)さえ出てきている。昭和の後半、アユにビブリオ病が蔓まん延えんし、ワクチンを開発した経緯がある。この折、農水省のワクチン検定機関で実験用のアユをどこから調達するかが問題になり、本県産のアユであればビブリオ菌の感染の経緯がないということで使用されていた。

 その後、ビブリオ病も落ち着いた矢先、水中の一般細菌の一種であるフラボバクテリア菌が、臓器などから検出されるようになったのである。活力の低下と病原体の強毒化は現在の自然界の象徴で、鳥類、家畜、人間のみならず水界も同様な様相を示している。

 国は当初、欧州のサケ科の魚類で行われていた一尾ずつ注射する装置を購入し、実施することを進めていた。しかし、現場では全放流尾数を処理するのは困難だった。在職中、ビブリオワクチン処理(溶液に浸しんし漬)を応用しながら実験したところ、ある程度の成果が得られた。それを報告して退職したが、最近になって少し可能性があるとの考えに至り、牛歩のごとき進しんちょく捗の現状はなぜなのかを考える必要が出てきた。

 これらは行政機関での研究者の位置付けと、彼らの研けんさん鑽が民間に比べ先んじているのだろうか。魚類にかかわらず、植物、家畜(動物)に共通する育種のセンスのみならず、起き得る事象の予察と、それに対応する能力の備わった人の育成を阻害する機構の改革、さらに外部からの評価を導入し、「行政には研究者は不要」という風評をなくさなければならないと思っている。

(上毛新聞 2004年4月30日掲載)