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◎住みよい社会の礎に 六十年の農業人としての人生を振り返って、しみじみ思うことは、初心に基づく実行の継続によって体得させていただいた価値観ではないかと思います。人間生活は平凡ではありますが、同じ生活と仕事の繰り返しの中で、目に見えない価値を心の中で見いだすものではないでしょうか。結果として、目に見えるものの変化をくみ取ることができるのではないか、と考えます。 さらに重要なことは、この大自然の中で、自分自身が人間としてどの部分に位置しているかという存在感を明確にとらえ、一日二十四時間をどのように使い分けていくかで、己に最も適した人生の基準を選択していくことではないか、と思います。 個の確立による努力の累積は、自分の周囲にもいろいろな変化が生じ、自分を取り巻く生活にますます農業人としての意義と価値が確認され、前向きに自信に満ちた生活を味わい、そこで初めて経営も安定し、発展が生まれるのではないでしょうか。人間性あふれる社会生活を送らせていただけるという意味で、道徳と経済はまさに、車の両輪であると教えられてきました。 本来、事業の目的は経営の安定とともに、「人づくり」であり、後継者の育成が最大の課題であると思います。農業は第一次産業の特殊性から、その収益性は低いのですが、なくてはならない産業です。「非経済的な富を生産する産業である」とも言われ、公益的機能を具備している産業であります。 次の世代を担う後継者育成は、農業に限らず、人類的な課題であると、かねてより考えておりました。後継者づくりは、自らの責任において人生の脚本を作り、それを演出していく親になることにほかならないと思います。その努力の積み重ねにより、毎日の人生が真に充実したものになり、大自然の恩恵に感謝と報恩の精神で精進することによって、初めて後継者が育つことを、私自身も若干体験させていただきました。 われわれ農業者のみならず、今日の高齢者としての基本姿勢、すなわち人間としての社会的な義務の先行が子供や若者に信頼され、ひいては若い後継者が育ち、住みよい地域社会の実現の礎になるのではないでしょうか。 私は先人より「発心、実行、継続」という言葉を教えられ、人生の指針としてきました。そして、この言葉を生涯学び、実践することを信条にしています。従って、人間は他人から強制されることなく、自覚に基づいて意思決定をすべきだと思います。 こうした人生の意義と価値を地域社会に広げていくことが、私ども高齢者の義務と責任ではないかと考えます。今日の社会は価値観が多様化している時代ですが、己を律して住みよい社会の建設につなげていくことが、新しい国づくりにつながるものと考えております。 (上毛新聞 2004年4月29日掲載) |