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勢多農林高校教諭 新井 秀さん(前橋市箱田町)

【略歴】高崎女子高、東京教育大体育学部卒。陸上競技の現役時代は走り幅跳び国体3位、400メートルリレーインカレ入賞。1968年、松井田高教諭となり、伊勢崎女子高、高崎女子高を経て現職。

農業教育



◎土が生徒たちを変える

 二十八年間の普通高校生活から、八年前、農業高校に転勤した時、大きな驚きと衝撃の連続でした。赴任したその日に、校長から「午後は上泉農場を見学していただきます」と言われ、思わず、何で体育教師がと思いましたが、校長の「きょうから、あなたは農業高校の教師になったのですから、現実をしっかり把握し、学んでもらいます」という一言で、私の事実認識の甘さ、勘違い、無理解さを痛切に感じたことを覚えています。

 そして、今まで抱いていた農業に対するイメージが、かなりの部分、見事に打ち砕かれました。例えば、牛舎の牛には鼻輪がなく、かわりに首輪がありました。牛はコンピューターで管理されていたのです。応用菌類の部屋には無菌室があり、新たなキノコ類が栽培されていました。しかし、私が最も印象づけられ、ハッとしたのは、説明をしていただいた実習担当の先生たちの輝いた目と、生き生きとした働きぶりでした。失いかけていた「何か」を思い起こすことができたのです。

 その後、新たな経験が始まりました。空き時間に生徒の実習に交ざり、キュウリが真っ直ぐになったのは?(確か、私の子供のころのキュウリは曲がっていたのに)、トマトの青臭さが消えたのは? ニンジンが短く太くなったのは? など、数多くの疑問が出てきました。しかし、そのほとんどは、単に私が気が付かなかっただけのことでした。それは、消費者の要求に応じて次々と品種改良が加えられ、本来の形状や味などが変わってしまったことなのです。

 また、実習に取り組んでいる生徒の変化も見逃すことができません。赴任した八年前に比べると、確実に営農家の子弟が減少しています。しかし、入学当初、無目的で、ただ何となく過ごしていた生徒も、実習が始まり、土いじりや自然に触れることにより、すべての生徒とはいきませんが、徐々に変化が見られるようになってきます。

 初めはなぜなのか、よく分かりませんでしたが、一つの答えが見つかりました。それは「土」です。生徒はじかに土に触れることによって、土を耕すことによって、野菜も花も、素直に反応してくれることを実感できるのです。生徒は自分が丹精して栽培した、これらのものを自ら食したとき、本物の味を知ることができるのです。同時に、生きるものの素晴らしさ、生命の輝き、大切さをも実習という授業を通して、体感できるからだと思います。実習をまじめにきちんと学習している生徒は、着実に変わってきます。

 今の世の中、簡単に生命が奪われてしまいます。生命の大切さ、素晴らしさは、人間本来の姿、すなわち自然をもう一度見つめ直し、生活の中に素直に取り入れることが必要なのだと思います。学校教育が混迷している現在、今こそ農業が、農業教育が見直されるべきだと思います。間違いなく「土」が人間を変えることができるのですから!!

(上毛新聞 2004年4月11日掲載)