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フランク英仏学院副学院長 フランク佳代子さん(前橋市小相木町)

【略歴】早稲田大卒。日本レールリキード社、在東京コンゴ大使館勤務を経て、仏・米に留学。米カレッジオブマリン卒。1978年に帰国。翌年、夫とともにフランク英仏学院を創設。同学院副院長。

児童英語教育



◎対等の語学力めざして

 私が英語を始めたころ、この前橋で外国人に会うということはめったになかったが、今の子供たちは外国人の生の英語に触れることができる。小学校での英語授業導入のせいか、近年、幼児や低学年から英語を始める子供が多くなった。確かに、話し言葉としての外国語は右脳を通して身につけるもので、ピアノやバレーと同じように身体や聴覚の発達期に始めるのが適切のように思われる。

 幼児にとって、外国人との初めての出会いは火星人を見たほどの驚きなのか、年に一人はショックに耐えかねて泣き出してしまう子がいる。泣きこそしないが、多くの大人はこのショックを一生抱え込んでいるのかもしれない。だから、外国人を見るだけで緊張したり、変にはしゃいでしまうのだろう。しかし、目や肌の色は違っていても、血の色は皆同じ人間であることに変わりない。

 英語教室にやってくる子供たちが身をもって理解するのはこのことである。外国人という差別はすぐうせて、ジョンやトム、サリーといった人格との触れ合いになり、先生が代わっても新しい人との出会いを楽しんでいるように見える。だが、外国人に親しむことと言葉を習得するということは少し違う。外人といるだけで、魔法のように英語が話せるようになるといったコマーシャルが横行しているが、それは宣伝に過ぎない。

 ひとつの言葉が脳に定着するには約八十回のインプットが必要だといわれている。ピアノの練習と同じように、リスニングの反復や舌の使い方の訓練が必要である。これをゲームや動作を通して楽しく飽きさせないように指導するには、綿密なプランや教材の工夫、何よりも教師の優れた技量と子供の心の気付きが必要なのだ。ネイティブだからといって、皆教師の素質を持っているとは限らない。子供の扱いに慣れた日本人教師とチームでやる方が、うまくいく場合が多い。

 耳から覚えた子は、長いセンテンスでもあっさりと覚えてしまうという特徴がある。英語劇などをさせると、子供の持つ無限の潜在能力に驚き、感動する。「シンデレラ」や「赤ずきん」といった皆が知っている物語だが、セリフのやりとりは中学生並み。

 「分からない、覚えられない」と言っていた子供たちも、本番になるとゲストの外国人と息のぴったり合った演技をしているのだ。上演後も、覚えたセリフを何回もまたやりたがって、佳境に入ったピアニストのようだ。こんな域まで達した子供が急にやめたりすると、育てた翼をもぎ取られたような痛みを覚えることもある。

 二十一世紀の子供たちは、外国人との触れ合いくらいは誰でも体験するようになる。時代が必要としているのは、外国人と対等に堂々と議論もし、必要とあれば「ノー」と言える人なのだ。それには、もう少し本腰を入れて外国語に取り組んでほしいと思う。ものになるには、少なくとも十年が必要だ。ネバーギブアップの決心で粘り強くゴールに近付いてほしい。

(上毛新聞 2004年4月3日掲載)