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建築家・地域計画工房主宰 栗原 昭矩さん(伊勢崎市山王町)

【略歴】京都工芸繊維大住環境学科卒。横浜、前橋の設計事務所を経て、1998年独立。歴史的建物を生かした「地域づくり」や調査に取り組む。伊勢崎21市民会議座長などを歴任。NPO法人「街・建築・文化再生集団」理事。

まちづくり玉村塾



◎歴史資産で地域再生

 昨年の秋、玉村町の町中に残る古い赤レンガ倉庫で「赤レンガ倉庫がよみがえる」というイベントが行われました。長く眠っていた赤レンガ倉庫に、町並み等のスケッチ展会場としての新しい命が吹き込まれ、二日間で約三百人の方が来場し、にぎわいました。

 玉村町の町中は、かつて朝廷から日光東照宮へ向かう勅使(例幣使)が通行した日光例幣使道の宿場町として栄えました。しかし、最後の例幣使が通行した年の翌慶応四(一八六八)年、大火により宿場町の街道沿いの多くの建物は焼失してしまいました。

 現在残されている古い建物の多くは明治以降のものですが、そこにはかつての町屋の造りが連綿と受け継がれ、今に当時の町並みのたたずまいや趣を伝えています。一方、近年の都市化の進展の中で空洞化や虫食い的な建物の更新等が進み、玉村らしさの喪失が懸念される状況でもあります。

 このような状況の中、昨年度、玉村町の依頼によりNPO(民間非営利団体)法人による旧宿場地区の歴史資産の基礎調査が行われ、本年度は歴史資産を生かしたまちづくりを進める住民主体の研究会「まちづくり玉村塾」が発足し、約二十人のメンバーによる活動が始まりました。

 まちづくり勉強会、町の魅力を再発見するための街角探検、探検マップづくり、そして赤レンガ倉庫の実験活用が行われました。皆で力を合わせての大掃除から始まり、飾り付け等の協働作業により、いよいよ本番。ほこりだらけの倉庫は、見事な味わいのあるギャラリーに生まれ変わりました。多くの来場者から評価の声が伝えられ、あらためて町中に残る古い建物(歴史資産)の魅力を知ってもらうとともに、活用の意味性を問う格好の機会となりました。

 経済偏重、効率第一主義的な価値観の台頭は、多くの豊かさをもたらした反面、地域性や地域文化の喪失をもたらし、まちに対する愛着の種を消し去ってきました。どのまちも、かつての暮らしの記憶が薄れ、まちの人格が消えようとしています。また、開発の波に乗り遅れたと考えられてきたまちは時代から取り残されたかのように思われ、人々の視界から消え去りそうです。

 しかし、近年のまちづくりの模索の中で、各地で人々の暮らしの記憶である古い建物、地域文化財の活用に目が向けられ、地域性の再生がまちづくりに欠かせない要素の一つになろうとしています。まちにおける人間性の回復なくしては、これからの真に豊かなまちはつくり得ないということではないでしょうか。

 「まちづくり玉村塾」の活動はささやかな一歩ですが、貴重な第一歩です。長い暮らしの上に築かれた玉村町らしさをいかに生かすか、次代の子供たちのためにまちの将来を地域住民の皆で考え、できることを一つ一つ形にしていこうとする思いが今、玉村町において動き始めたことを伝えていきたいと思います。

 時代の流れに取り残されたと思われていた町は、実は時代の最先端に立っているかもしれないのです。

(上毛新聞 2004年3月30日掲載)