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◎テロの真因は米国に 昨年五月一日、ブッシュ米大統領の戦闘終結宣言が出されてから十カ月が経過したが、米軍をはじめとする駐留軍に対してはもちろん、国連事務所、警察駐屯地、連合国暫定当局本部、はたまたクルド族、シーア派住民、ビデオ・CDショップにまで、テロ攻撃はその対象と勢力を拡大している。このテロの主体はバース党の残党等ではなく、むしろ、米国の中東政策に反対するイスラム国際過激派であるという論調が主流をなしてきた。 ブッシュ大統領はテロリズムを「顔を見せない憶病で卑怯(ひきょう)な行為」と言うが、イスラム側から見れば、ステルス爆撃機や巡航ミサイルによる攻撃も顔を見せない憶病で卑怯な戦法となろう。また、テロリズムはなにもイスラム過激派のみが使用してきた手段ではない。ナチスドイツの傀儡(かいらい)政権下で行われたフランスのパルチザンの活動も、紛れもないテロ行為であったし、ユダヤ人国家建設のためシオニストがデイア・ヤシイン村等で行った殺りくも、イスラエルと対立するテロ集団ヘズボラー指導者暗殺のため米CIAが行った車両爆弾作戦も、イスラム側に言わせればテロ行為そのものであり、北アイルランドのカトリック系過激派組織IRAも多くの爆弾テロを実行してきた。 ブッシュ政権はテロ組織を掃討し、テロ支援国家を抹殺することでテロを根絶するというが、これは癌(がん)に侵された部位を摘出し、さらに、転移を警戒して広範な周辺組織をも切除するというに等しく、癌発生の根源を隠秘した姑息(こそく)な対症療法というべきである。イスラム過激派によるテロリズムの真因をイスラムの貧困によるとか、欧米に対する嫉妬(しっと)とするものがあるが、実はイスラエルの建国に始まる米国の専横にある。 米国はイスラエルを中東における米国の対ソ連、対イスラムの橋頭堡(きょうとうほ)と位置付け、一九四八年のイスラエル建国以前から一九八二年の第五次中東戦争までにイスラエルに対して総額二百八十億ドルに達する軍事的、経済的援助を行ったという。イスラエルは五回に及ぶ中東戦争で圧倒的な軍事力によってアラブ諸国を制圧し、二度に及ぶ国連安保理決議の撤退勧告にもかかわらずパレスチナのヨルダン川西岸、ガザ地区等の占領を続けている。 政教一致の理想的なウンマ・イスラーミーヤ(イスラム共同体)への回帰を説くイスラム過激派は、自分たちの聖なる土地に駐留する異教徒の軍隊と、コーランに背戻(はいれい)した西欧文化を憎悪し、決定的な軍事力の差を埋めるためにテロをもって抵抗しているのである。 二〇〇一年十月七日、アメリカはアフガニスタンで対タリバン爆撃を開始したが、その直後に国際テロ組織アルカイダの指導者ウサマ・ビンラディンが出した声明が象徴的である。「我々(われわれ)の土地やパレスチナの地で安心や安全が確保されない限り、アメリカやアメリカに住んでいる人々が安心や安全を味わうことは決してないであろう」 ―十二年間、イスラムの地でイスラムの民と暮らした者の視座から― (上毛新聞 2004年3月29日掲載) |