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◎夢を追い本質的議論を 昭和四十五年、ヤマメの種苗生産から放流実験までほぼ完了し、水産試験場の舞台は箱島(吾妻東村)から前橋(前橋市敷島町)に移るが、そのころから琵琶湖産アユの将来に不安を抱く人たちが多く、理由として琵琶湖総合開発事業の予定とビブリオ感染症の伝播(でんぱ)が徐々に進行し始めていたことだった。その後、薬剤耐性菌の出現により、海産魚を含めた薬漬けの酷評によって、消費者の買い控えが始まったころでもある。 さて、なぜ人工生産アユか。理由はともかく、本県でも着手することになったが、当時は「そんなに生態系を崩すようなことをしなくても」と言う声があったのも事実である。水産試験場の実績として長年、琵琶湖産稚アユをはじめ各地の海産稚アユを移入し、囮(おとり)として利用できる成魚まで育成する技術の持ち合わせが、後々、アユ種苗生産の強力な後押しになっている。 最初は下りアユからの採卵で開始したが、大量生産となると親魚の育成が必要になり、近県でも一番早く、素晴らしい卵を確保できた。そこで、なぜ本県は採卵できるのだろうと他県から視察が絶えず、さらに余分な卵を譲ってほしいと来場したものである。現在はこの方式はとらず、別の方法で飼育しているが、量産のキーポイントが見学者の多かった飼育方法にあったことを再考しなければならないだろう。時代は進み、結論の裏付けは既に報告されている。 採卵後の仔稚魚(しちぎょ)の飼育に必要な餌料には、多くの実験結果から最終的にはシオミズツボワムシが必要で、この培養では思考錯誤の末、群馬の培養方式で特異的に増殖力のある変異株の取得に成功した。アユにとって栄養が十分か否かは分からないまま、最初はパン酵母を使用してワムシを培養、アユに与えたが高率で奇形アユが出現し、栄養学的にクロレラを追加することで奇形は克服された。 順調に進んでいたアユの生産も需要が多く、水産試験場も要望を満たすため、まず高密度でワムシを培養し、県内放流分のアユ種苗を十分満たすため素晴らしい施設を持った。が、残念なことに基礎実験と育種技術の不足は否めず、さらに、冷水病の出現には疫学調査もままならない現状がある。冷水病対策としてワクチンの実験結果から既に可能性を示唆したが、いまだに使用に至らず迷走状態が続いている。 以前、琵琶湖では流入河川に上ってくる稚アユを捕獲し、日本各地に輸送・放流していたが、人工産アユは冬期中でも飼育水を加温し、飼育するため湖産に比べ大きくなる。そこで価格ともども競争になり、琵琶湖では年内に湖内でシラスアユを捕獲し、陸上で育種する方法が取られるようになった。しかし、人工飼料の原料不足(魚粉)と価格競争のため強靱(きょうじん)な稚アユが育成できず、本県までの輸送に耐えられない現状に至っている。そこに現れたのが常在的に存在していたであろう冷水病菌のまん延で、どこかコイヘルペスウイルスに似た傾向を示している。 この現状は遊魚者サイドからの応援だけで、果たして夢が追えるのであろうか。解決のための本質的な議論を聞いてみたいものである。 (上毛新聞 2004年3月19日掲載) |