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◎父の疾病を機に知る 私とキノコとの出会いは高校三年生の時です。それは、文芸評論家として活動していた父、恭平が胃がんと診断され、多臓器転移により胃、十二指腸、すい臓、二十四カ所のリンパ節などを切除し、摘出する大手術を行いました。その後、免疫療法としてキノコ類のカワラタケを原材料としたクレスチンを医師の処方で、さらに民間療法としてのマンネンタケ(霊芝(れいし))とヒメマツタケ(アガリクス茸(たけ))の煮汁液を飲用したことによるものです。 そんな療法を行った父は、その後二十二年間生きることができましたが、その理由は適切な根治手術によるがん組織の摘出が第一であると医科学的に評価しています。しかしながら、術後に父がとった自己管理も適切であったことは確かでしょう。その自己管理として父が服用したものがキノコであったことは事実であり、私はキノコに深い関心を持ったのです。 当時、高校の参考書で調べたキノコの役割は、食物連鎖のピラミッドにおいて微生物の部類に区分けされ、植物などの細胞壁成分である難分解性繊維のリグニンという化合物を特異的に分解する森の掃除屋さんであるといった程度の記載であったかと思います。 そんな存在のキノコが疾患の治療に功を奏することがあるといったことを父の疾病を機に知り、自分の手でキノコを科学的に検証したくキノコ研究のできる大学へ進学しました。今考えると現在の専門であるキノコの研究テーマは、父がその時に与えてくれた私にとっての宝物であると認識しています。 現在、私は高崎健康福祉大学に勤務していますが、キノコは大学の名称である「健康福祉」にも深い関連を持っているものと認識しています。 具体的には―。 (1)中国では漢方薬としてブクリョウとチョレイマイタケの二つのキノコが古くから利用され、ヒトの「健康増進」に効果が見出されてきています。 (2)キノコは分解者であることから環境負荷物質の分解や浄化に作用し、土壌改良に貢献して安全な作物生産のための自然環境を構築することに役立っています。私は、自然環境下で生産される食糧資源は病気の予防や治療に働くことから「健康」のみならず健全な食環境確保の面から見た広義での「社会福祉」にも深く関与しているものと考えるのです。 (3)キノコは、森林土壌中に菌糸を長く成長させ土壌中に間かん隙げき(すきま)をつくり、雨水などを蓄積(水の確保と自然浄水)する森林ゆえの「緑のダム」の構築にも貢献しています。 ここに示したようなキノコの持つ機能を今後も科学的に追及し、私たちの生活に役立つ有用資源として活用できるように研究を推進したいと考えています。キノコ研究のテーマは、いまや食用や薬用のみならず、環境浄化(ダイオキシン分解や紙おむつなどのポリマー分解)、紙づくり、バイオマスなどに及んでいます。 こんなキノコの科学的な魅力を次回から分かりやすく紹介していきたいと考えています。 (上毛新聞 2004年1月31日掲載) |