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◎老いを前向きに生きる 人間誰にでも平等に老いはやってきます。ただそれにどう対応できるかが、人それぞれに違っており、十人十色といえるでしょう。その中で、私が深い感銘を受け尊敬している人、Sさんといいますが、ご紹介したいと思います。 Sさんは現在九十三歳で、一人暮らしをなさっておられます。広い庭内にいろいろな草花、花木等を植えて手入れをなされ、草むしりや庭を掃いていつもきれいにしていて、訪れる人の目を楽しませてくださいます。 日常の家事もしっかりなさって、いつも穏やかな笑顔を浮かべて、前向きに生きておられます。そんなお姿に私も老後はかくありたいものとひたすら願っております。 小春日和の一日お訪ねしましたところ、一輪車を押してアジサイの花がらや枯れ枝に、草花のすがれたのを片づけておられました。ちょうど良いところへとよろこんでいただき、一休みしましょうとお話をしてまいりました。 Sさんのように健康で長生きできる秘訣(ひけつ)はと、お聞きしましたところ、まず「お友達をたくさん持つこと」、そして「いろいろなことに挑戦する」「趣味を持つ」「愚痴を言わず、前向きに、感謝の気持ちを常に持つ」と教えてくださいました。 早くにご主人に先立たれ、悲しみの中から短歌を勧められて短歌会に入会、短歌に生き甲斐(がい)を見いだして、毎月一回の歌会にはかかさず出席なさっておりました。 昨年十一月三日、村の文化祭に詠草を出品なされ見事に金賞に輝きました。表彰式にも出席され、村長さんより賞状を頂き大勢の人々に祝福されました。本人はもとより仲間である私たちも本当にうれしく賞状を頂く後ろ姿に感無量の思いでございました。最近は高齢になられたということで歌会の方はお休みしておりますが、詠草は休みなく出詠されております。 詩吟ももう何十年と続けてこられ、吟のお仲間も大勢おられます。一人住まいなので針仕事などなさりながらカセットテープで練習し、数年前までは月三回のお教室に出席して、お稽けい古こに励んでおりました。 新年会や納吟会などの集まりの時には、長い詩文もすべて暗記して朗詠し皆をびっくりさせておりました。声を出すということは大事なこと、まして一人暮らしでは日常の会話は少なく、吟じることによって大きな声を出し、腹の底からの腹式呼吸が大いに役立っているものと思われます。 老後を託すべき長男に先立たれ、どんなにか力を落とし悲しまれたことと思いますが、その悲しみを乗り越えて明るく生きておられます。少し離れた所に嫁いでいる娘さんが時々訪ねてこられ、お世話なさっておられますが、明るく惚ぼけずに老後を立派に過ごしていらっしゃるSさん、私たちもこのように過ごしてゆきたいものと願う心のよりどころでもあります。 (上毛新聞 2004年1月26日掲載) |