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◎明らかに生態系の変化 縁あって、一九六七年に群馬県庁に入庁し水産試験場(旧箱島養よう鱒そん場)勤務を命じられた。最初の仕事がヤマメの種苗生産であった。 ヤマメは本来、サクラマスの陸封型の名称で、海へ帰って(降下)川へ上ってくる(遡そ上じょう)性質を持っている回遊魚である。これを種苗生産し、放流するとメスになるべき魚は、すべて海に下ることになる。本県で放流すると、埼玉県をはじめ下流各県を通過して海に行き、そして川に上ってくるにしても途中で捕られる可能性があると考え、海に下らないヤマメをつくることに専念した。 それには、長年陸封されているであろう吾妻川支流のヤマメに着目。地元のベテラン釣り師に親魚候補の捕獲をお願いし、七十六尾のヤマメから育種が始まった。まず池によしずを掛け、薄暗くして静かに餌付けを始め、これらを親魚に育てた。この親魚から採卵し、卵からの仔し・稚魚の育成、そして育成親魚からの採卵を経て再生産に成功した。 与えられた条件下(旧箱島養鱒場)で、どのような育て方をすれば最も大きなヤマメができるかに挑戦中、運よく満一年でメスが卵を産んだのである。このことは、従来の説とは異なる。研究会で報告したところ「本当かいな、そんなことあるはずがない」と誰も相手にしてくれなかったが、一人、故中村守純先生が「いや、起こるかもしれない」と半信半疑ながら可能性を示唆してくれた。 その後、当時、中禅寺湖畔の水産庁淡水区水産研究所(日光支所)から今は亡き白石芳一所長と、大学でもお世話になった白旗総一郎室長が群馬まで確認かたがた来場。「これは本物だ、このようなこともあるのだなぁ」と感心され、「すぐ放流実験をしてみないか」と委託研究費を出してくださった。 いろいろな実験から降下する性質も弱く、銀毛にもなりにくいことから、群馬大学の内分泌の先生にホルモンを確認してもらい、貴重な裏付けデータをいただいた。しかし、なぜ満一年で成熟するのか、その理由はまだ明らかになっていない。 ヤマメの種苗生産は軌道に乗り、箱島養鱒場で約百万粒の採卵が可能になったが、養殖業者や漁業協同組合から稚魚の要望が予想以上に多く、養殖用と放流用の尾数を合計すると生産尾数を上回る事態となった。この不足分を補うため、県外から発眼卵や稚魚が移入され、養殖され始めた。 結果として、前述のように海に下る性質を持った稚魚を放流することになった。本格的に放流が始まって約十年経過したころから、利根川に帰ってくるサクラマスが利根大堰の魚道(行田市)で確認されるようになったのである。昔、遡上の様相は『月夜野村誌』などにも記載されているが、明らかに生態系の変化といっても過言ではない。 この是非論は別として、さらにダム湖などの上流域にサケ科の魚類(イワナ、ヤマメなど)を放流する場合には交雑(異種の交配)に注意する必要があろう。 (上毛新聞 2004年1月24日掲載) |