視点 オピニオン21 |
■raijinトップ ■上毛新聞ニュース |
|
|
◎ミネラル含有量が逓減 昨今耳にする言葉に「ビタミン外来」というのがある。 人体の構成と機能の調整に関与するもので人間の体内でほとんど合成することのできないビタミンと、体内で全く生産できないミネラルとは食物から摂取しなければならないが、現在の食物のビタミン、ミネラルの含有量は往日に比して著しく減少していて、人間は栄養失調状態にあり、健全な発育や健康保持に支障を来しているという。ここでサプリメント(足りない栄養素を補給補完するもの)を摂取することを奨励している診療部門が「ビタミン外来」のようである。 農畜産物のミネラル含有量が逓減しているのは事実のようで、米国農務省一九九二年の統計によると、三十種類の野菜と果物のミネラル含有量の平均値は三十年前に比較してカルシウム30%、鉄32%、マグネシウム21%が減少しているという。 その原因は農耕牧草地の土壌の疲弊にある。人類は収穫量の増加のみに専念し土壌中のミネラルを ち誅ゅう求きゅうするのみで、失われたミネラルを補給することを怠ってきた。 一九九二年の地球サミットで提示された統計によると、この百年間で失われた土壌中のミネラルは北米大陸で85%、南米大陸で76%、アジア大陸で76%に達するという。 土壌中のミネラル量回復の研究は一八八〇年代から始められており、農業地質学(Agrogeology)の台頭を機にますます盛んになった。米国農務省は堆たい肥ひの中に岩粉を混ぜた肥料を用いる研究を行い、オーストラリアでは粉砕玄武岩や粉砕花こう岩、米国ミシガンでは粉砕氷ひょうたいせき堆石、ドイツのミュンヘンでは粉砕珪けい酸塩岩を使った実験が行われ、いずれも、植物のミネラル含有量が著しく改善されたという報告もあるようだ。日本では「砕さい石せき朽く木ぼく」とは役にたたない物事の謂いいであるが、日本にも粉砕岩や腐食材が土壌の再生に不可欠な財であるとし、土壌に投入することにより成果を挙げている農業者がいると仄そく聞ぶんする。 近年、アジア諸国から農産物が輸入され、日本農業の将来性が危き惧ぐされている。この際、日本も市場性、生産性の高い農産物を諸外国に輸出すべしというのも一見識ではある。がしかし、農畜産物の輸出はとりもなおさず、国内土壌中のミネラルを輸出することである。 西太平洋西部、ミクロネシア東南端にナウル共和国がある。国土は高純度燐りん鉱石から成っており、この燐鉱石の輸出で国家財政は潤沢だったが既に掘り尽くされ、国土面積のほとんどが失われた。まさに国土を切り売りしてきたのである。農畜産物の輸出はこれと軌を一にする。 土壌中のミネラル枯渇の問題はミネラルの補給と流失をセットにして解決すべき焦しょうび眉の難問なのである。 人類は己の築いた文明によって絶滅するといわれる。絶滅は、核被害に因よるのではなく、案外、ミネラル不足に起因する生殖能力の減衰によるのかもしれない。 (上毛新聞 2004年1月15日掲載) |