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ぐんま森林と住まいのネットワーク副理事長 大内 栄さん(桐生市本町)

【略歴】前橋工業短大卒。1984年に「大内栄+空間工房」を設立。本一・本二まちづくりの会役員。ぐんま森林と住まいのネットワーク副理事長。

合併という試練



◎地域力が試されている

 日本中で市町村合併への取り組みが進んでいます。しかし、合併を一生懸命進めているのは行政と議会という地域がほとんどではないでしょうか。これは、強引に合併を強要している政府からの通達に期限を切られて進めなければならない立場の人が仕方なく取り組んでいるためで、住民からすると合併の目標がそれぞれの立場の利益誘導に終始しているように見えます。

 合併論議の中で住民の意見が反映されないことを「住民無視」とか「住民が置き去りにされている」といわれていますが、これは意見や考えをもった住民に対して言えることです。自ら望んでもいない合併や理由のはっきりしない合併には意見をもてるはずもなく、正確な判断材料をもち合わせていない多くの住民は、合併の枠組みを判断することもできずにもはや「かやの外」に置かれて合併そのものが問題化しています。

 以前、ある方から住民と市民の違いについてお聞きしたことがあります。住民は地域に住んでいる人のことであり、市民とは地域で生活しながらその地域(広くは国)のことを考え行動できる人のことです。いつの時代にも住みやすくよいまちはたくさんの市民によりまちづくりが進められています。

 合併問題が避けて通れないものであるならば、市民はこれから合併とどう向き合えばよいのでしょうか。少なくとも合併の枠組みを考えることに終始するのではなく、五十年先を見すえた地域のあるべき姿を市民の手によりつくらなくてはなりません。それは地域を知ることから始まり、地域の独自性を見つけだし新たな仕組みを模索することです。特に二十世紀型産業社会が崩壊しつつある現在、環境、歴史、文化を手がかりとした地域の再生とコミュニティーの創出こそ新たな地域の活力となり、小さくとも自立した地域をつくることができる可能性をもっています。また、自らの存在感をもてない地域は合併により他の地域に吸収され消滅する運命にあります。

 いま、政府から突きつけられた合併という試練で地域の力が試されています。住民の一人ひとりが地域のことをよく考える市民として行動することが地域力を高めることにつながります。地域力は市民の意識により高まりもすれば衰えもします。

 合併問題で住民が二つに分かれ首長が代わるほど激しい議論をしている地域がありますが、市民により真に地域のことを考えた議論や行動であれば、いずれを選択しても正しい選択になると思います。反対に目先の利益を求めた枠組みの在り方に終始しているのであれば、いずれを選択しても間違った選択になりかねません。合併は地域づくりの求めるべき完成形ではありません。合併する、しない、どことするかにより地域の将来が大きく左右されるものではなく、地域力がこれからの地域を支えることになるでしょう。

(上毛新聞 2004年1月8日掲載)