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国際貢献群馬大学大学院医学系研究科教授 中野 隆史さん(前橋市国領町)

【略歴】長野市出身。群馬大医学部卒。放射線医学総合研究所に17年間勤務後、2000年から同大教授。専門は腫瘍放射線学。がんを切らずに治す重粒子線治療施設を同大に導入する準備を進めている。

国際貢献



◎今こそ人の輪の拡大を

 一般市民を巻き込むイラク戦争後の残忍非道なテロ活動による死者の報道が続く中、ついに、二人のイラク日本大使館の職員に死亡者が出てしまいました。お二人のご冥めい福ふくをお祈りいたします。また同時に、日々患者の命を救うことを生業とする医療人として、国際紛争の解決の手段に人間の殺さつ戮りくを繰り返す人類の愚かさに、陰いん鬱うつな居たたまれなさを感じています。

 マスコミの報道でも、イラクの人道支援のための自衛隊の派遣は賛否両論に分かれています。私は石油などの資源や食料のほとんどを輸入に頼り、国際貿易の恩恵を最大限に享受している日本の立場を明確に意識して、紛争後のイラクの安定化のために適切な国際協力を行うことは不可避であると考えております。

 この紛争において大量破壊兵器や核兵器の国際査察で知る人も多くなっている国連機関に国際原子力機関(IAEA)があります。このIAEAは、一方で原子力の平和利用を主たる目的として国際協力活動を行っております。

 その活動のうち、アジア地域の開発途上国を対象とした原子力科学技術に関する協力活動としてIAEA・RCA(原子力科学技術に関する研究、開発および訓練のための地域協力協定に基づく活動)があります。この協力活動で日本政府は外務省や文部科学省の責任下で七分野(農業、医療・健康、工業、環境、エネルギー/研究炉/廃棄物管理、放射線防護、一般)において協力プロジェクトに参加しています。

 私はこのIAEAの国際協力活動に約十年来参加し、現在、保健・医療の分野のアジア地域の責任者をお引き受けし、群馬大学医学部を責任国事務局として、実行プロジェクトの調整や監督を行っています。

 その活動の一部として、当医学部腫しゅ瘍よう放射線学教室が中心となり、子宮癌がんの放射線治療の技術支援のプロジェクトを受け持ち、平成十三年度から毎年、アジア地域各国の放射線治療従事者を対象に“子宮頸けい癌の放射線治療に関する”国際トレーニングワークショップを開催しております。

 “日本は国際協力活動にお金は出すが、顔が見えない”などと揶や揄ゆされることがありますが、ともするとステレオタイプになりがちなマスコミ報道の陰で、地道な国際協力活動が行われているのが現状と思います。

 確かに、英語会話能力の低さや日本的慣習の国際慣習とのずれなどの個人的な要素に加えて、政府主導の国際貢献活動に対する国内の支援体制の不整備やODAなどの予算措置の硬直化などのために“顔が見えない”傾向があることは否めません。

 いずれにしましても、私どものこうした活動は基本的にボランティア活動であり、資金面や人材面そして活動時間の制約で多くの困難に直面しています。群馬地域の既存のNGO組織との連携を図りたいとも希望しておりますが、一般の皆さまにも国際的な貢献に参加する機運が醸成され、こうした国際協力のお手伝いをしていただける人の輪が広がることを望んでやみません。

(上毛新聞 2004年1月3日掲載)