視点 オピニオン21
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藤岡市民太鼓会計 岡村 和代さん(藤岡市藤岡)

【略歴】文化服装学院服飾専攻科卒。会社員を経て家業の婦人服地専門店に。群馬青友会会長、藤岡商工会議所青年部・会員委員会、経営研修委員会の委員長などを歴任。2001年から現職。

私の太鼓道



◎日常すべてが練習の場

 ふとしたことがきっかけで、人生が変わってしまうことがあります。というと大げさですが、私にとっては群馬県での国民文化祭の開催がそれでした。和太鼓フェスティバルが藤岡市で行われることになり、二○○○年三月に市民約百人が和太鼓を演奏するために集まったのです。小学三年から六十代まで、大半が太鼓をたたくのも初めて。最初は太鼓の数も少なく、タイヤを使いながら交代での練習でした。

 子供の時から和太鼓が好きで、年に一度の藤岡まつりが楽しみだった私。夏だけだった太鼓がその時から週一度はたたけるようになった幸せ。練習後、皮がむけて血だらけになった手を見ても、痛いより太鼓をたたける喜びの方が大きかったのです。次々と楽譜がくると、車のハンドル、お風呂のフタ、段ボール箱、どこにいても常にたたいて体で覚えていきました。日常すべてが練習の場でした。

 バチの正しい持ち方さえ知らない私たちを、根気よく指導してくださったのは、上杉管領太鼓の方たちでした。また、石川県からも先生を迎え、ただ曲をたたくのではなく、自分の気持ちを入れてたたくことを教えていただきました。「太鼓は木と革の二つの命からできている。だから大切に扱ってほしい。練習でも演奏する時はスイッチを切り替え、太鼓に集中する」。技術的なことだけでなく、精神的にも鍛えられました。

 二○○一年十一月四日、和太鼓フェスティバル開催。本番前の緊張しながらも集中していく自分と、内容は満点ではなかったけれど「絶対成功させる」というみんなの思いが一つになった演奏の気持ちよさは、今でも忘れることができません。この時から私の生活は和太鼓が中心になりました。もっといい演奏がしたい―。メンバーに新たな目標ができ、こうして本当の意味での藤岡市民太鼓が誕生しました。現在は市が年に一度、和太鼓講習会を行い、希望者が市民太鼓に入ってきます。約七割が女性で常に百人はいるメンバーですが、世代を超えた交流をしながら、楽しく、時には厳しい練習をしています。

 ある時、メンバーの練習を見ていて一人の年配の女性にくぎ付けになりました。その人は太鼓をたたくのが「すごくうれしい! 楽しい!」という気持ちが全身からあふれていて、とてもいい笑顔でたたいていたのです。私は前を見据えてたたいているので、自分を素直に表現されているその姿をとてもまぶしく感じました。こういう生き生きとした表情が人を感動させ、自分もやってみたいという気持ちを起こさせるのでしょう。「挑戦してみよう!」と思う気持ちは人を変えます。そこからいろいろなことにも出会えるのです。残念ながらこの女性は今太鼓を離れていますが、いつか演奏を見てもらえた時「いい表か情おしてたよ」と言われるように、私はバチを握り続けたいと思っています。

(上毛新聞 2003年12月16日掲載)