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◎大脳を刺激する特効薬 世相は時代とともに絶えず変化していく。例えば、一昔前は“親孝行”が最高の美徳とされていたが、現代社会では死語も同然である。 「孝行を したい時分に 親は無し」 親の恩に報いようと思った時には、既に親はこの世にいない。 「孝行を したい時分に 親になり」 前掲の川柳の字句がほんの少々換えてある。 「孝行を したくないのに 親が居おり」 平成の長寿社会になると、正々堂々と親不孝を宣言する新人類も現れる。 川柳は江戸時代に確立された庶民文芸で、現代まで脈々と受け継がれている。明朗闊かっ達たつで一切の虚飾を排し、簡明直ちょく截せつで軽妙洒しゃ脱だつな表現が共感を呼ぶ。 私は江戸川柳の洗練された上質の笑いに魅せられている。 私は時事川柳にも興味があり、新聞を手に取ると、真っ先に川柳欄から読み始める習慣がすっかり身に着いている。 「オーイお茶 次の言葉は 入ったぞ」 ある生命保険会社が一般募集したサラリーマン川柳の入選作である。 一昔前までは夫がどっかりと座ったままで「オーイ」と威張っていれば、妻がいそいそとお茶の用意をしたが、現在は夫がお茶を入れて妻に知らせる時代である。 「オーイお茶 一回言って みようかな」 去る九月中旬の上毛川柳欄に載った投稿句である。妙に印象深かったので、雑記帳にメモしておいた。将来は妻が夫に向かって「オーイ」と叫ぶ時代になるかもしれない。 夫婦の力関係が根底から逆転するコペルニクスの転回が起こりつつある。お茶の入れ方だけに着目しても、世相の移り変わりが読み取れる。 私の所属している高崎東ロータリークラブには、会員有志で構成している川柳愛好サークルがあり、定期的に集まって作品を披露し合っている。私も駄句をひねっている常連の一人である。 社会問題にどんな角度から切り込んで、五七五で表現しようかと工夫する創作の過程に手応えを感じている。 “考える”や“創る”や“書く”という行為は、理想的な大脳刺激である。人体機能は「鍛えれば向上する。使わなければ衰える。適度に使い続けていれば、持ちこたえる」のが大原則である。 川柳創づくりは、特に高齢者が若々しい大脳機能を維持するための特効薬、と私は評価している。大勢の高齢者が川柳創りで頭脳の活性化を図れば…と願っている。 (上毛新聞 2003年11月26日掲載) |