視点 オピニオン21
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国土交通省高崎河川国道事務所長 森山 誠二さん(前橋市日吉町)

【略歴】岡山県生まれ。東京大工学部卒業後、1986年に建設省(現国土交通省)入省。中国地方建設局、新潟県庁、本省道路局、総合政策局を経て2002年4月から現職。趣味はギョーザ、カレーなど料理。

美しい群馬づくり



◎地道な取り組みを

 皆さんの家のなかはきれいだろうか。毎日の掃除や片付け、収納の工夫や配置換え、内装の模様替えなど、十分かどうかは別にして、大いに気を配りまた悩まれていることであろう。普段暮らしているところであるから、気持ちの良い空間にしておきたい。こう思うのは、至極当然のことである。

 では、家の外に出てみるとどうであろうか。見苦しい看板や統一感のない塗装、蜘く蛛もの巣状態の電柱など、決して美しいとは言えない。西欧などへの旅行から帰ってきて、あらためて日本の景観とのちがいに愕がく然ぜんとした経験をお持ちの方もおられよう。

 家の中はきれいにするのに、家の外となるとなかなかそうはいかない。国民性であるとか、行政の意識の低さだとか、いろいろなことが指摘されている。原因はどうであれ、社会活動の舞台である公共空間は、きれいで美しくあってほしい。そうすれば活動の効果もさぞかし向上することであろう。

 美しい景観をつくり出すことは簡単なことではない。建築物の外観、道路などの公共空間、田園や山並みなどの自然そのもの、これらの各要素がそれぞれ景観的に洗練され、かつこれらが調和してはじめて良好な景観が形成される。県内の自治体においても、屋外広告物条例や景観条例などを制定し、良好な景観整備に努めようとしている事例が増えてきている。しかしながら、総論賛成ではあるが、各個人や事業所からすると規制をともなうことになるため、多くの場合、各論反対に陥りやすい。このため、地区指定など具体的な取り組みとなるとなかなか難しいようである。

 現在私が勤めている職場は、国の地方機関として、群馬県内の国道や一級河川といった社会資本の整備や管理を担当している。景観の形成という点では、要素の一つである。規制はあくまで民間活動に対するものであり、どちらかというと受動的な取り組みである。行政側が自ら直接的に景観を整備していこうというものではない。

 ならば、人に言うだけではなく、自らも取り組んでいこう。私の職場では、これをモットーに、できることから一つずつ進めていこうと考えている。国道に架かっている歩道橋の塗装、国道わきのガードレールや照明灯、さらにはバス停の色やデザイン。こういったことですら、景観的にどう配慮していけばいいのか意外と難しい作業となる。地域の景観の観点からみれば、ほんの些さ細さいなことかもしれないが、地道な取り組みを進めていきたい。

 百年前のロンドンは、電線が空中に蜘蛛の巣のごとく張り巡らされ、醜悪な景観を呈していたという。その後の不断の努力の蓄積があって、現在の優れた景観がつくり出されている。ここ群馬においても、行政と市民による地道な取り組みを継続し、その結果として、美しい田園風景や風格のある都市景観が着実に形成されていくことを期待している。

(上毛新聞 2003年11月21日掲載)