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◎社会動かす巨大な権限 「人事権」の問題はたまたま、道路公団総裁の騒動で、また地元では副知事の県議会承認問題で、いまマスコミの大きな話題となっている。 私のように小さいとはいえ自ら会社の経営を行ってみると、人事権の大きさを実感するとともに、責任を感じることが多い。民間会社の経営者は、採用から俸給の決定、昇進はもちろんのこと解雇の権限まで握っている。振り返ってみると、私のかつての国立大学教官という立場では、大学の自治のもとに教官に人事権は与えられているようでも、いったん採用した者には、その後何らの人事権も行使できない。今の公務員制度下では、少々不満はあってもひたすら仲良く付き合うしかないのが実情であった。 今この身になって、この人事権より世の中を見渡してみると、いろいろなことがクリアに見えてくる。民営化論議で出てくる公営企業体の非効率さも、自己の努力や業績が自分の昇進に正当に反映されにくいシステムに問題がありそうだし、社会主義が崩壊したのも、人事権が健全に行使されないことによっているようだ。官僚機構が良く機能している面は、成果が評価される人事制度が前提となっており、天下りのようなあまりに面倒見のよい人事は、制度悪となり批判も生まれてくる。公務員や官僚制度の問題は、形式的には人事権はあっても、それを行使しにくい体制から派生しているものも多いようだ。 一般企業の経営力もいかに人材を活用するかにかかっている。大企業病といわれる事なかれ主義も、経営者の人事権行使に密接にからんでいる。最近では業績が落ち込めば経営者の責任が問われ、トップの迅速な決断が必要とされる。誰かがその駄目トップを選んだのであり、トップの選ぶシステムも問題となる。そういえば調子の良い自動車メーカーは、オーナー的経営をしているし、トップに強力な人材を投入したメーカーは見事に再生を果たした。 日本の国を動かすトップは、言うまでもなく首相である。小泉首相の人事は、派閥順送り人事から脱したといわれているが、外から見ていてその意図が比較的わかりやすく、政治家は企業とは違った視点で人事権を発動しているようだ。きょう九日は衆議院議員選挙の投票日。選挙こそ、国民が本当に与えられた唯一の人事権行使の機会である。この人事権行使が金にからんだり、また一部の人たちの利権に結びついたり、特定の地域だけのために行使されたのでは、日本の国は破滅に向かうであろう。 国の富の源泉が製造業にあることぐらいは、国民誰でも知っており、その製造業が中国などアジアの発展途上国の低賃金を武器とする製造業に負けそうになっている。日本のこの行き詰まり状態を改革するには、結局は政治に頼るしかない。どんな政策や法律も政治家が決めるのであり、製造業にとって癌がんともいえる数々の規制を撤廃するのも政治家しかありえない。その政治家に物を言えるのは有権者であり、有権者の一票である人事権行使を大切にしたいものである。 (上毛新聞 2003年11月9日掲載) |