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日本国連環境計画群馬支部長 小暮 幸雄さん(高崎市新保町)

【略歴】群馬高専卒。生産・環境施設の企画設計に携わり、1993年に株式会社ソーエン設立。日本国連環境計画創立に参加、同計画諮問委員。2002年10月に群馬支部を立ち上げ支部長。

自らの義務として



◎犯罪減らし治安守ろう

 ふるさと前橋のシンボルの一つである赤煉(れん)瓦(が)の塀が美しい前橋刑務所、その赤煉瓦塀を一部取り壊しての刑務所の増築が計画され、着工されているようである。私たちは塀の中の様子は垣間見ることはできないが、その増築の原因である収容人数の増加には驚かされる。ここ数年の犯罪の増加が著しいのは各報道で知らされてはいるが、その検挙率が20%程度であるにもかかわらず刑務所が増築され、県内に新たな刑務所の誘致などという話も聞こえてくる。東京都でも、原宿の繁華街にほど近い場所に計画があるようである。

 最も安全な国「治安大国日本」と言われたのは、すでに過去のものとなり、外国人窃盗団の暗躍には家の中にいても安心できず、路上ではひったくりをはじめ、殺人などの凶悪犯罪が頻発している。犯罪件数の増加ばかりでなく、その異常性も目立つ。小学校に乱入し刃物で次々と命を奪った事件、十二歳の中学生が四歳の幼児を連れ出し性的虐待の後、ビルから突き落とした事件、中国人留学生に一家四人が惨殺され海に沈められた事件、十六歳の女性店員が撲殺され焼かれた事件、数え上げたら切りがない。こうした犯罪の多発、凶悪化の原因に社会環境の変化、悪化があるのではないだろうか。

 私たちが二十世紀からつくり上げてきた大量生産、大量消費の「物作り」を中心にした社会づくりの在り方に問題はなかったろうか。安価で品質の良さを追い求め、より効率的にと無駄なものを省き、生産ライン・社会システムを築き上げてきた優秀な人々には、そこから切り捨てられるゆとりや、癒やしの価値を考える余裕もなかったのではないか。教育現場では、誰しも均等に勉学の場を与えるのはよいが、成績の結果を最優先に高得点を目指した競争をあおり、ついてこれない生徒は切り捨ててしまっていたのではないだろうか。それらの結果が二十世紀の繁栄をもたらしたのも事実ではあるが、二十一世紀を迎えて、次々と負の部分が大きく現れてきてしまったような気がする。

 物作り構造経済だけを見ても「安かろう、良かろう」の製品作りは、中国をはじめとする東南アジアに移行してしまっており、すでに日本における大量生産・大量消費型の社会は崩壊したといえる。私たちのこの百年は、経済的にも技術的にも大きな進歩を遂げたのは事実ではあるが、自然環境はもちろん社会環境に取り返しのつかないほど、大きな犠牲を払ってしまったのではないだろうか。経済社会の発展には、そこから生じてしまう負の現象があるのも仕方ないことではある。しかし、それを覆い隠すのではなく、しっかりと目を向け、現象としての自然環境・社会環境の破壊を防ぎ保全することが、その発展の恩恵を受けている人々の責任ではないだろうか。

 私たちに納税や選挙の義務があるように、犯罪を減らし治安を守る義務、犯罪被害者などの社会的弱者を守る義務、環境負荷を低減し自然環境を守る義務等があるのではないだろうか。それは、誰かがやってくれるものでもなく、国や行政に押しつけるものでもない、私たち自らの力で成し遂げ、望むべき未来を期待したい。

(上毛新聞 2003年11月2日掲載)