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◎家族愛から生まれる 星野富弘作品との最初の出会いは、その題名『愛、深き淵より。』に惹(ひ)かれて買い求めた、二十代前半のことでした。この出会いは、現在も多くの方が感動の言葉をお寄せくださるように、私にもまた衝撃的でした。想像をはるかに超えた闘病記録であること以上に、苦悩との闘いの中から自己回生の道をみいだしていくまでの、精神史というべき本書に深く心打たれました。その時、遠くかなたへ発せられた一筋の光のような生きることの意味をみつけられた思いで、私の涙は止まりませんでした。 十一年間の教員生活を経て、学芸員免許取得中にもかかわらず、富弘美術館に勤務できることになったのは、私にとってとても幸運なことでした。 富弘美術館に勤めるなかで、大学の先生方には熱心に私の質問や相談にのっていただきました。職場では、館長をはじめとするスタッフの方々から慣れない仕事に協力の手をさしのべていただき、感激したことたびたびです。また、富弘美術館を囲む会や富弘美術館の村内のボランティアグループ「一粒の麦」の方々からいつも、温かく見守っていただいています。 どんなに忙しくても、富弘作品を扱えることは、充実した楽しい日々です。保存や展示の専門家の方々からも惜しみないご教示をいただけるのは、ここ、富弘美術館に勤めているからです。 しばしば、星野家を訪ねさせていただき、直接お話ができる立場にいられる(二十代のころの私は、夢にも思っていませんでした)こともとても幸せに思います。いつも、温かく迎えてくださり、浅はかで失敗ばかりの私は、穏やかに、いつの間にか励まされています。ご家族の誰もが温かく、この家族愛に満ち溢(あふ)れた生活の中から、富弘作品が生まれ続けているのだと確信します。 富弘さんは、現在、月に二、三作品の制作に取り組み、その間をぬって、出版する本の打ち合わせ、また、全国で開催されている詩画展の打ち合わせとそのオープニングへの出席など、本当に忙しい毎日をお送りです。それでも、一度も忙しいという顔をなされたことはありません。私自身はというと、企画展やワークショップの準備、小学校への出前授業、新美術館へ向けての準備など、なりふりかまわず、忙しいそぶりを周囲に見せているような気がします。富弘さんのように、もっと、ゆったりと構え、大切なことを見落とすことなく、前へ進めればと思います。 (上毛新聞 2003年10月9日掲載) |