視点 オピニオン21
 ■raijinトップ ■上毛新聞ニュース 
野反峠休憩舎勤務 中村 一雄さん(六合村入山)

【略歴】六合村立入山中卒。理容師専門校卒業後、神奈川県平塚市で理容師となる。1974年、六合村に戻り、父とともに野反峠休憩舎を経営。環境省の自然公園指導員や県の鳥獣保護員を務める。

当節ハイキング事情



◎中高年はマナーを守れ

 低温と日照不足の夏が去り、澄んだ空気と青空のもと、紅葉を求めるハイカーでにぎわう秋になりました。

 野反湖ばかりでなく、どこの山でもハイカーや登山者の七割が中高年というのが現実ではないでしょうか。

 昭和三十年代から四十年代の初めにあったハイキングブームで、山の楽しさを知った世代が仕事や子育てに区切りがつき、時間の余裕が持てるようになったのが中高年のハイキングブームの背景です。

 今、中高年といわれる世代の最大の関心が健康といわれています。歩くことが肉体的な健康につながるのはもちろん、自然の中で感動するのも心の健康をたもつことに欠かせない要素のひとつです。

 多くの人に、自然にふれあい疲れた心を癒やして、日常の生活の活力としていただければと思います。しかし個人の楽しさを求めるだけで、公共の場所で求められるルールやマナーに反した行為も数多く見られます。

 そのひとつは古典的とも言うべき、植物の盗掘です。今年もオノエランをはじめあちこちで盗掘跡を確認しています。たまたま盗掘の現場を見つけ注意すると、「ここも採ってはいけない場所ですか」という人もいます。

 「尾瀬では採ってはいけないと知ってたけど、ここでは採っていいと思った」という言葉を聞くと、特定の地域や、希少動植物を象徴化する自然保護のありかた自体が問われているようにも思います。

 最近急増している、犬を連れてハイキングする人のモラルもまた、大きな問題になりつつあります。

 五世帯のうちの一世帯が犬を飼っているといわれる現状で、犬を家族の一員として考える人の気持ちは理解できますが、しつけの行き届いていない犬が人に吠(ほ)えたり、リード(引き綱)から放たれ、草原をうろつく犬も見られます。

 自然の中ではその地域に棲(す)む動植物が限られた環境の中で次の世代に命をつないでいます。

 リードから放たれた犬は動植物の棲(せい)息環境に悪影響を与えるだけでなく、野生の哺(ほ)乳類が持つ、疥癬(かいせん)などが感染し、被害者になることもあります。

 さらに危険なのは、山に入った犬がクマに追われて、飼い主のもとにクマを連れてきてしまうこと。実際にあった話です。

 この夏も、トイレの洗面台で泥に汚れた犬を洗った人もいます。

 犬を苦手とする人もいることを理解せず、フンも適切に処理することができない人が増えている今、犬連れのハイキングが法的に規制される日が来ることも予想されています。

 そのほかにも、ハイキングコースの誘導ロープをまたいで草原に入って写真を撮っている人たちも数多くみられます。

 モラルやマナーを守れない人の多くが中高年というのも、最近のハイキングブームの一面です。

 公共の場所での行動ということも忘れずに、秋の自然を楽しんでいただきたいと思います。

(上毛新聞 2003年10月8日掲載)