視点 オピニオン21
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NPO法人シリモな群れ事務長 細谷 潔さん(玉村町福島)

【略歴】東京都出身。文教大卒。環境カウンセラー。幼児体育指導が専門。2001年、NPO法人を設立、職業や性、年齢、能力などの垣根を越えて、シリモ(アイヌ語・穏やかな)に群れている。

土と向き合う



◎味の濃い野菜に驚く

 若王子(やこじ)の森の近くに約一反の畑を塚越氏よりお借りして、約半年がたちます。家庭菜園もしたことがない超初心者の私。仲間の町田さんや相川さんと「あーでもない、こーでもない」とやり始めましたが、土に遊ばれているといった感じです。

 長靴履いてタオルを首にまいて鍬(くわ)持っての土との格闘は、健闘むなしく全身汗だらけで手のひらはマメだらけ、プラスぎっくり腰のオマケツキ。そして農協で種や苗を買ってきても植え方がわからず、家庭菜園ハンドブックを周囲を気にしながらチラチラ読み。果たして自分の家の何倍もあるこの広大な土地に野菜が実るのか、初日から不安なスタートでした。

 でも欲張って、なんとかキュウリ、ナス、トマト、カボチャ、エダマメ、落花生、長ネギ、ウグイス菜、ゴーヤー、トウモロコシ、サツマイモ、メロン、スイカ、シシトウ、トウガラシ、オクラ、モロヘイヤ等を植えました。

 でも大変なのはその後でした。「農薬や除草剤を一切使わない」と皆で誓ったものですから、発芽したのを喜んでいるのもつかのま。畑はあらゆる昆虫の養殖場に、しかも従来のサボリ癖も手伝って野草園に変わってしまったのです。でも不思議なことにヤバイと自覚すると、また力がわいてくるものですね。「素人が何やってんだか?」という天の声も手伝って、懸命に草を刈りました。

 そして虫に食われた作物をよく見ると、すべてやられているわけじゃないことに気づきました。トウガラシの葉は虫のかじり跡ひとつありません。そこでトウガラシとドクダミを炭焼きで採取した木酢液に漬け込んで天然除虫剤を作って散布。まったく虫がつかないほどの効果はないものの、多少の効果はあったようです。農薬や化学肥料がなかった時代、どうやって作物を育てていたのかを今一番知りたいです。しかし、モンシロチョウが飛び交う畑も景色になるものですね。

 普段はスーパーできれいな野菜しか買わない私でしたが、夏前から次々と収穫し始めた野菜を食べて味の濃さにびっくり! 今までマヨネーズやキムチ味などの濃い味付けで食べていたのを恥ずかしく思いました。お天道(てんとう)さまと大地から恵みを受けた野菜がこんなにもおいしいとは。近くの林にすむタヌキたちも時々畑に来て食べているみたいですし、若王子の子どもたちもとれたての野菜をそのままガブリ。おいしいカボチャはお菓子にして、エダマメはゆでて、玉村町のふるさと祭に出品し喜ばれたこともこれからの活力になります。

 玉村町には安岡正篤氏が創立した日本農士学校を卒業された方々がいると聞き、興味を持ちました。先日、埼玉県東松山市にあった農士学校の跡地に建てられた郷学研修所安岡正篤記念館に行ってきました。日本の将来を語り、国をつくり上げるために草の根の指導者(農士)を養成するための学校があったとは驚きです。食を海外からの輸入にたよっている日本の行く末はどうなるのでしょうか? この大地に生きているという自覚や誇りを見失ってしまっているのでしょうか? 土と向き合い始めたばかりですが、そんな疑問を身近に感じることができました。何げない私たちの生活も緑豊かな自然もこの大地の上に存在していると思うと、もっと足下に目を向けなければならないことに気づかされます。

(上毛新聞 2003年10月7日掲載)