視点 オピニオン21
 ■raijinトップ ■上毛新聞ニュース 
日本原子力産業会議常務理事 町 末男さん(高崎市中豊岡町)

【略歴】京都大大学院工学研究科修士課程修了。工学博士。元原研高崎研究所長。1991年から9年間、日本人として2人目の国際原子力機関(IAEA)事務次長。特許多数。紫綬褒章受章。

40度のフランスの夏



◎地球温暖化が心配だ

 フランスなどヨーロッパの国々は四〇度という猛暑に見まわれて五千人ともいわれる人々がそのために命を落とした。とくに老人が多いというこの不幸な件についてヘラルドトリビューン紙は「暑い夏と冷たい社会」という興味深い一文を載せている。私もヨーロッパに長年住んだので体験しているが、ヨーロッパの夏は以前は二七度くらいが最高温度だったのでほとんどの住宅に冷房がない。したがって、一人暮らしの老人にとって四〇度の夏は生命にかかわる。そのような老人を見捨てた社会の「冷酷」さを警告しているのである。

 著名な専門家が集まって「気候の変動」を検討しているIPCCという国際的なパネルがある。その最近の報告によると、これからの百年間で地球の平均気温が最大で五・八度上昇すると予測される。そのために極地の氷がとけて海面は八十八センチ上昇すると警告している。このようなことが起これば南太平洋の小さい島国は沈み、世界で海岸地方に住む一億人に及ぶ人々が高潮による浸水被害を受けるという。実際、群馬の夏も暑くなっている。過日も前橋で三七・二度を記録した。沼田の友人は「四十年前の子供のころは冬は毎日雪の中を歩いて学校に行ったものだが、今はすっかり降雪量が減っている」という。

 温暖化は平均気温を上げるだけでなく、異常気象を招く。これが農業にも、生活にも悪影響を与える。この温暖化の原因は何か。急速に活発になっている人間の産業・経済活動や快適な生活のために必要な電気や熱を生産する時に発生する炭酸ガスが上層に蓄積され、地球をすっぽり包んでしまう。この炭酸ガス層が温室のガラスの役割をするからである。火力発電所から毎日排出される炭酸ガスの量は莫大(ばくだい)であり、温室のガラスを年々厚くしている。これを止めるには(1)炭酸ガスを出さない方法で発電を行う(2)省エネルギー(3)植林して森林による炭酸ガスの吸収を増やす―などの対策が必要である。省エネルギーはわれわれ一人ひとりが努力しなければならない。夏の冷房温度は高めに設定し、冬の暖房は低めの温度にして厚着する、不要な電灯はこまめに消すなどの心掛けが必要だ。しかし努力にも限度がある。電気のない生活には戻れない。

 次に炭酸ガスを出さない発電方法を活用することも大事である。風力や太陽光を使う発電は自然エネルギーの利用でクリーンである。炭酸ガスも出ない。しかし両方とも広大な場所が必要で天候に支配される。風力で百万キロワット発電所をつくるには琵琶湖の三分の一の面積が必要で、風速が毎秒六・五メートル以上ないと発電できない。太陽光発電も広い面積が必要で、コストが火力の約十倍である。政府も低コスト化のための研究に力を入れる必要がある。一方、原子力発電はウランという天然資源を利用する方法で炭酸ガスも亜硫酸ガスも出さずコストも安い。日本の電力の三分の一をまかなう基幹電源である。最近一部電力会社のトラブル隠し問題があり、国民の信頼を傷つけたことがあったのは残念だが、安全は十分に確保されている。情報を透明化し、安心して国民に使ってもらうことが大事である。

(上毛新聞 2003年9月19日掲載)