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◎ごく自然な人間の営み 総務省から住民基本台帳に基づく、本年三月現在のわが国の人口動態が発表されました。それによれば、人口総数は約一億二千六百七十万人で、一年前に比べ0・17%増えました。他方、生まれた子供の数は百十五万人強で、過去最低でした。 出生者が減っているのに、人口が増えたということは、当然のことながら少子化がますます進行していることを意味します。もちろん、政府も手を拱(こまね)いているわけではありません。あまり一般の人々には知られていませんが、先の国会で「次世代育成支援対策推進法」という法律ができ、それに基づき、少子化の流れを変えるための対策作りの指針が告示されました。 指針に盛り込まれている事項は、どれも大切なことのように思われますが、「業務用車の運転手に対する交通安全教育」までが地域貢献活動の例として挙げられているのを見ると、こんなことで本当に「少子化対策」が推進できるのか少々心配にもなります。可能な限りの施策を総動員して、何とか少子化を食い止めたい、という関係者の意気込みが空回りしているように思えてなりません。何かもっと大切なものが忘れられてはいないでしょうか。 学生時代に、わたしは、東京のある地域で子供会活動をするサークルに入っていました。もう三十年以上も前のことで、今ではその地域はすっかり近代的な街に変貌(ぼう)していますが、その当時は、印刷会社などの下請けが中心の地域で、父親も母親も、朝早くから夜遅くまで下請け仕事にかかりっきりというような状況でした。 そのような中で、子供たちは集団遊びの天才でした。かくれんぼ、缶けり、水雷艦長、その他私たちが名前を知らないようなさまざまな遊びに、熟達していました。当然のことながら一緒に遊ばなければならないのはよちよち歩きの幼児から高学年生まで、まさに異年齢集団の典型です。どんな幼い子でも自分が子守しなければならない弟や妹ですから、排除するわけにはいきません。相手のグループに勝つにはそうした弱い子供たちをみんなで助けながら巧みに立ち回る知恵が必要で、子供たちは次々に新しい工夫を発明していました。私たちが子供たちから多くのことを教えられたのです。 地域の、職業生活の状況などは、とても今でいう「子育てに最適な環境」ということは言えないと思いますが、「子供を産み育てる」ということがごく自然な人間の営みとして行われていたことは確かなことだと思います。 社会や経済の高度化の中で、私たちは、自然からも離れ、地域からも孤立化して、自分の子孫を増やし、後世に伝えていくという「生物」としての最低条件を忘れてしまったのではないかとても心配です。仕事で成功したり、自分の能力を最大限発揮したりすることも大切には違いありませんが、「生き物」としての人間のありようをもう一度考え直してみるような施策が必要なのではないかと思います。 (上毛新聞 2003年9月6日掲載) |