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日本国連環境計画群馬支部長 小暮 幸雄さん(高崎市新保町)

【略歴】群馬高専卒。生産・環境施設の企画設計に携わり、1993年に株式会社ソーエン設立。日本国連環境計画創立に参加、同計画諮問委員。2002年10月に群馬支部を立ち上げ支部長。

冷夏



◎環境負荷減らす好機に

 今年の夏は、どこかおかしい? おかしい? と思っている間にすでに夏も過ぎ去ろうとしている。この十年ぶりの冷夏を、異常気象と見るか単なる気候のぶれと見るか定かではないが、ちょっと盛りを過ぎた身には、涼しい夏はありがたい。その原因が偏西風の乱れか、エルニーニョ現象によるものか、CO2増加による地球温暖化によるのかの議論は別にしても、気候の変動が私たちの生活に与える影響は大きい。経済的影響を考えれば、エアコンなどの電気製品や飲料の販売、レジャー関連施設の利用など暑い夏が望ましいのであろうが、環境面を考えれば、総体的に冷夏の方が環境に与える負荷は少ないと思われる。経済性の発展や物質的な豊かさを追い求め、成し遂げ、それに慣れてしまった私たちの生活は、口先では環境保護や、環境負荷の低減を訴えても、実際の生活面では難しい。

 あれだけ騒がれた原子力発電所の運転停止による電力不足危機も、電力会社の努力にもよるのであろうが、問題なく過ぎ去ることができた。とすれば、原子力発電所そのものが不必要であるとも考えられる。電気を使う生活は環境に優しいのではなく、現在の発電システムそのものが最大の環境負荷だということを知らなくてはいけない。私たちも暑さのピーク時にちょっと我慢する気持ち、暑さを楽しむ余裕がほしい。そして、冷房温度設定アップを訴えながら、公共的建物にも多く見られる大空間までも冷房しようとする無策無駄。子供たちまでエアコンの生活に慣れさせ、汗をかくこと、外で遊ぶことを忘れさせてしまう。快適さに慣れた生活は決して健康的ではないし、環境負荷も大きい。

 暑くなれば冷たい飲料が欲しくなり、汗をかいた後の冷えた麦茶のおいしさは格別である。そんな麦茶やお茶までもペットボトルに入って売っている。コンビニやスーパーの店頭、自動販売機でペットボトル入り飲料の種類も、量も増え続けている。ペットボトルのリサイクルなどという言葉がもてはやされ、「リサイクルしているのだから」という言い訳のもと、使い捨てをやめようとしない。国内のペットボトルの回収率が50%近くなったことは良いことだが、そのリサイクルに費やす環境負荷は大きい。現在のリサイクルは、決して大量生産と大量廃棄を解決するものではなく、使い捨て文化の助長でしかない。スーパーの店頭では、今夏の暑さに向け見込み生産されたペットボトル入りの飲料、水等のバーゲンも始まっている。手軽に買える便利さも決して環境に優しくない。どうかせめて麦茶やお茶くらい家庭でいれる気持ちがほしい。

 環境負荷を小さくするためには、私たちの生活、経済を後戻りすることなく、小さくする必要がある。大量生産や大量消費をやめ、できる限り小さいものにしたい。不況不況と騒ぎ、生産を上げ、消費をあおる発想を転換し、今年の冷夏を環境の負荷を減らす好機と考えられないだろうか。決して成長至上主義の大企業の論理や政策に踊らされることなく、自分で考え、自分で行動することが大切ではないだろうか。涼しい夏を決して災害と思わないで、災い転じて福としたい。

(上毛新聞 2003年9月2日掲載)